ぶんしょう

□マリアローズ争奪戦
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「……、人様の背後に立って暢気に傍観する悪趣味なクセが治っていないようだネ」

ふと気がついてみれば、なんだか懐かしいような、大きな影が足元に落ちていた。

知っている、気がする。

いや、気がする、なんてものではない。知りすぎている。本当は思考回路のどこかが理解していた。

僕がピンチのときはきっと助けてくれる、と。

聞き慣れて、もうすでに耳に心地良いように感じられる声が、空気を震わせた。

「む、いや、邪魔なら止める必要もないかと思ってな」

どことなく面倒臭そうで、良い意味で、腰を落ち着けて何もかもを見下ろしていそうな柔らかくて暖かい物腰だった。

「いや!邪魔なんかじゃないし!むしろ来てくれてありがとう!早速だけど助けて」

マリアローズはやっとそこで振り返って、超ド派手な炎模様に助けを求めた。

む、そうか、だか、わかった、だか、そんな言葉が聞こえて、大きな手のひらが僕に向かって伸ばされる。


ぱ し  ん 。


マリアローズの目の前で、アジアンが救いの手を忌々しそうに払いのけた。

「気安くボクのマリアに触らないでくれるかな、野菜野郎」

苦虫を噛み潰したような、そんな表情だ。

アジアンはもちろん、トマトクンもどことなくイラついて見える。

「白昼堂々俺のマリアに付きまとったあげく嫌がってるのに抱き着くような変態助平野郎が、よくそんな風に言えたもんだな」

そう言って、トマトクンがマリアローズを変態の手からあっさり奪い去った。

そうそう、きみの僕に付きまとうなんて……、え?

俺の、って、トマトクンの?

「うるさい、これは同意の上で…愛のある行為だヨ」

キミには関係ないだろう、とアジアン。

いや、関係あるし。大有りだし。

トマトクンの後ろから、こそっと顔を覗かせて、地味かつ全力で否定する。

「同意した覚えないんだけど。愛もないし」

「……、だそうだ」

がーん、とか、どーん、とか。今のアジアンにはそういった効果音がぴったり合う。

「そんな……っ、マリア!」

わなわなと震えた変態は、二、三度ポーズをきめた挙句、最後のあがきとばかり、マリアローズに襲い掛かった。

「と、トマトクン、助けて!変態がっ」

悲鳴を呑み込んで、マリアローズはトマトクンの広い背中をどかどか叩いた。

早くしてくれ、頼むから! せかす意味でもぼかすか殴る。

「む」

「ハッ……しまった!!」

やっと行動に移ろうとしたらしいトマトクンは、よっこらしょ、とマリアローズを肩の上に持ち上げた。

もち、もちあ……、持ち上げた?

「うわ、ちょっ……!」

「これで届かんだろう」

じたばたとマリアローズが暴れても、トマトクンには全く効いていない様子だ。

「そ、そりゃあ、そう、だけどっ」

……降ろして、くれないかな。

恥ずかしいんだけど。結構。

それはいわゆる肩車、というやつで、まあ標準より低いとはいえ、人間を1人肩に乗せた重量ってものは、それなりに重たいわけで、つ、疲れる! そう、疲れるじゃないか、トマトクンが! ……っていうか恥ずかしいからとりあえず降ろして欲しい……。

マリアローズがひっそりと、降ろして、と言うと、トマトクンが片方の眉を大仰に吊り上げた。いいのか。え、いや、いいっていうかむしろお願いします。本当にいいのか、マリア。え、なんでそんなにしぶるの。なんでって、そりゃお前。

トマトクンが、ふと下を指差した。そこには、必死で飛び跳ねる変態が一匹。

「くそっ、マリア!マリア、そんなケダモノの上じゃなくて、早くボクの腕の中へ!」




「降ろして欲しいか」

「え、いや、あの、お願いします降ろさないでください全力で」


***
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