ぶんしょう

□雨宿り
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買い物帰りに、人の波から頭一つ飛び出した男の後姿を見かけた。

背後から呼びかけると、何故だかいつもと違って足早な道化師顔負けの派手派手男がこちらへ振り返る。

やっぱりだ。
呼びかけてみなくても、この悪趣味な炎模様の鎧を着ている人間なんて、この世界で一人しか該当しないだろうけど。

「トマトクン! ・・・」

知った顔を確認するや否や、マリアローズはその傍へと駆け寄った。

「マリアじゃないか」

誰かと思えば、と、派手男は太陽を背に頭をかいた。

「どうしたのトマトクン、こんなとこで」

きみがこんな道通るなんて知らなかったよ、なんか、意外。マリアローズが言うと、まあな、と曖昧にトマトクンが返す。

トマトクンは無駄に図体がでかいから、こんな細くて暗い裏通りじゃなくて、明るく広い大通りのど真ん中を、のっしのっしと我が物顔で歩いていそうなのに。

マリアローズが訊ねると、トマトクンは鬱陶しそうに前髪をかき上げて、目を細めた。

「雨宿りだ」

天を振り仰いだトマトクンに倣って、マリアローズも視線を上にする。

「はぁ?」

雨宿りなんて、嘘ばっかり。
雨どころか、水道管から漏れる水滴の一粒すら落ちてこない。

眩しい太陽の光が目にしくしく刺さるのに耐えられず、マリアローズは荷物を抱えていない方の右手を額にかざした。

「晴れてるじゃないか。何言って、」

ぽつん、と頬に何かが当たった。

マリアローズが人差し指でそれが流れ落ちた後をなぞる。

「あれ、・・・雨、だ」

ただ呆けて突っ立っているだけのマリアローズに、トマトクンが濃紺色の屋根を作ってくれた。

鈍感男のくせに、たまには気が利くらしい。

ありがとう、とマリアローズが短く言うと、静かに凪いだ黄玉の瞳がすぼめられた。

「言っただろう、雨宿りだ、って」

道化師の下卑た笑い声は、

雨の群れにかき消されて消えた。




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