感情のジグソーパズル。

私の名前はありません。
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少しの年月と少しの時間が経った。
もの静かだったこの城が…


「ぐえーん!!ぐーえん!あっ!」




「姫さまー!!!どちらですか!?」

「ひーめーさーまぁ!!!」

「お勉強のお時間ですよ!!!姫様っ」






賑やかになった。
いや…煩いくらいだ。




女王は千代の転生を千代に任せたと言う。千代が選ぶ場所で千代は育つそれを幸せだと言うと。
母上に似た表情でおっしゃった。

そして全て聖書を書き変えた。




千代の生誕祝いと共に。




白いワンピースを靡かせ走って来る。





可愛い笑顔で微笑み、何かに気が付いた様に戸惑う。



辺りを見回し戸を閉める。




「ぐーえん!お仕事ぉ?」


「あぁ…お前は勉強の時間だろう?」


「だって…マザーがぁ…」




マザーと言うのは千代の専属の使用人。兼教育係だ。
だが…昔から二人は仲が悪い。

老婆であるが、言うことの聞かない千代に苛立ち、千代は煩い老婆が嫌いなのだろう。




「だって…マザーね…千代にこーぉんなに宿題出すんだもん…」


「そうか…しかし千代、お前は…アニシナと昨日…」


「あれは遊んでたんだもん」


「…」


「姉様の様になって…ぐえんと結婚するの!!」

「っ…そうか…なら私と約束してくれるか?」


「うんっする!」






小さな小指が絡まる。
【約束】





「千代はね…ゆーりのお嫁さんにもならなきゃいけないの」

「なっ!?」

「あと…うぉるふらむと…あと…あ、げーかとね…あと…あとね…」


意味を解ってないで言ってるのか…と溜め息をつく。



「でもね!ぐえんわ特別なの」


「特別?」


「そうだよ!千代ね…ぐえんだいすきだからっそれに約束したのはぐぇんだけだもん」











幼い頃から千代はスキを安売りする。
まるで言わなければいけない言葉の様に…言う。



「千代…私と結婚するのならば姉様の様に賢い人にならねばな」


「そうなの?」


「あぁ」

「なら…千代は今日からぐえんと勉強しますっ」





そう言い席に座ると、棚にあった歴史資料を読みはじめる。
そんな難しいのを読めるのかと感心していると、すぐに資料を閉じる。



「読めない……」


「っぷ…あはははは…そうだろうな」


「難しいっ」


「なら、マザーの勉強をちゃんと受けるんだな。」




「…はぁい」





渋々了解した表情。
それがまた可愛らしい。
小さな約束にですら期待をしている私。

千代は椅子をおりて、微笑む。



「ぐぇん…ぐぇんは千代のこと…すき?」


「あぁ、勿論」


「……むぅ…千代…マザーと勉強してくる」





不機嫌になって出ていく千代。
訳が解らない。
ふぅとため息をついて、背もたれによっ掛かる。



ノックの音に顔を上げる。
最近では千代のノックの音が解るようになってきた。


「失礼するよ、ってあれ?千代姉ちゃんは?」


「…勉強中だろう」

「ちぇー…せっかく…勝利に頼まれたもの持って来たのにな」

「勝利に?」



勝利と千代は仲が良かったと聞いている。
アイツが何を?


眉間にシワを寄せると、コンラートと有利は顔を見合わせ苦笑している。


「千代姉ちゃんの宝物だって」


コンラートが古びた段ボールをテーブルに置く。

見覚えがあった。

そうだ、コレは…千代の地球の住まいの押し入れにあった…

「……コレを?」

「うん、軽かったから服とかかな?」

「さぁ?ぬいぐるみかもしれませんよ」

「千代姉ちゃんがぬいぐるみ!?まさか」



有利は千代を姉と証して従い、小さな千代は有利を子分に思っている。





「千代姉ちゃん…成長早いよなぁ」


「そりゃ全世界国宝の聖霊天使ですからね、それに彼女は特別で聖霊天使でも陛下と並ぶ、いぇそれ以上の地位のお方です。」


「え?そうなの?」

「はい、彼女の能力は癒し、再生、破壊、万物…自然の循環と世界の循環を司るのが彼女なのですよ」

「へー…ってことは神様みたいな存在ってことか!?」

「神…とは違うと思いますが…言うなれば巫女に近いですね」

「へぇ〜千代姉ちゃん…そんな凄い人だったんだ…」

「あの方は少し有利に似ています」

「俺に!?」



そう思うだろう?と話しをふるコンラートに視線を背けた。



「そうだな……ほんの…少し……な」






「グウェンダルって千代姉ちゃんに激甘なんだね」

「ぞっこんですよ」

「マジで!?え、じゃぁ…千代姉ちゃん好きなタイプって…」

「陛下!しーっ」








タイプ?


ソレは千代の過去…だろう?
けど…



そんなの関係無いだろう…



「コンラッド…グウェンダルこっち睨んでない?」

「…はぁ……陛下…いっそ教えてあげましょう」












時々思いふける千代。
ぼんやり外を見て、方角的には眞王廟の方だ。
その小さな羽で飛んで行ってしまいそうで不安になる。
けど、すぐに私に気がついて足元に抱き着く。




"背の高い、声の低い大人の人だって"











そうだ…知っていた事を知らないフリをしていたんだ。



最後まで…





何も言わなかった…

言えなかったんだ。


再び同じ事を繰り返すのか?
いや…そうはさせない。
絶対に。
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