感情のジグソーパズル。

臆病者の戯言
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私は朝起きて、眞王陛下にばれないように部屋を抜け、庭に出た。

池に腰をかけて羽根を出した。
空はまだ白い。
月と太陽が出る、そしてそれを映す水面。
靴を脱ぎ、足を踏み入れる。
奏でる謳は聖なる水を輝きに導くように輝る。

羽根に手をかけて、引きちぎる。


「っぁああああ…ッッ」



羽根は光となり消える。
身体を動き回る、黒蛇は小さくなり目立たなくなる。

あとすこしの力が足りない。


拒絶反応で身体が震える。


これで……少しは…眞王陛下のお傍に長く居られる。

新翼の翼はまだ白い。

この羽が、黒蛇に浸蝕されるまで…貴女の傍に…



寒いよ…まだ途切れる記憶。


羽根は記憶。


私は…もう何も恐れはしない。




眞王陛下…


水面に身体を浸し痛み熱を持つのを冷やす。
髪の毛は銀色には戻らなかったな…と思いながら空を見上げた。
まだ星が見える。
口ずさむのは幼い頃に習った賛美歌。

と不意に誰かに抱き上げれれる。


「千代姫、こんな時間に水遊びですか?」




「…貴方は?」



「え?」




「私は神村千代です…眞王陛下の聖霊をしています」





彼は紳士で驚いた顔をしていたがすぐに挨拶をされた。
ウェラー卿コンラート。
それが彼の名前。嗚呼、魔王陛下の?と聞くと今は上王陛下らしい。今の魔王は渋谷有利、男の人だそうだ。
 記憶を無くしたことを理解しているので、それを恐怖には思わなかった。
彼は何処か懐かしくて、何処か寂しくて…それでも話しやすくて久しぶりにこんなに誰かと会話した気がした。


「千代は眞王陛下が好きなのかい?」

「はいっ!眞王陛下は……私の大切な大切な人ですから」


似た様な事を前にも言った気がした。この人に…
彼はそうか、と微笑み濡れた私の髪の毛をかき上げた。


「風邪をひいてしまう、もう部屋に戻りなさい」

「はい、ありがとうウェラー卿」
「それは俺の台詞だよ」







 寝室に戻ると眞王陛下が心配をしていたのか、こっぴどく怒られた。お風呂に引っ張られ久しぶりに一緒に入った。恥ずかしいと言う私に「どうせお前は10も数えぬうちにあがってくるだろう」とお母さんみたいに怒られ、湯に放り出された。
 悪戯っ子みたいに笑う貴方に私は膨れっ面を晒していた。
羽根を見せるとまた怒られた、これは私を心配しての怒り。何だかくすぐったくて、嬉しくて泣いてしまった。
そうしたら貴方は慌てて、慰めようとする。ああ、私この人が主で、この人が好きでよかったと身に染みるように感じた。

この時間を大切にしたい。心からそう思った。

この人が居るこの世界で…もっともっと生きたい。

愛したい。













「うぅ…めがぁあ〜まわるぅ…」
「すまない…」

それは何度目かの眞王陛下の謝罪の言葉をはいた時、おおらかな巫女ウルリーケが激怒した。



「眞王陛下!!!!ホントに申し訳ないと思っているのですか!?あぁ…破廉恥な…ウルリーケは何事かと…いらしてみれば……聞いていますか!?眞王陛下!!」


「だ、だからすまないとこう何度も言っているだろう」


反抗したものならウルリーケの怒りを煽るだけだった。

「千代様は病み上がりだというんですよ!?解っておいででしょう!!!」



風呂場で情事をしてしまいのぼせ、倒れた私を見て驚きベッドに寝かせようとしたが途中気を失いウルリーケに頼んだのだが、事情を察知したのか眞王陛下に説教をしているといういきさつだ。


私は、ベッドに寝ながら倪下に団扇で扇いでもらっていた。


「大丈夫?千代さん」

「げぇ…かぁ……」

「まったく、最近の若者は元気だねぇ…まぁ今回は眞王が悪いから千代さんは気にしなくていいんだよ、それより水飲む?」

「はぁぃ」


しょぼんとしている眞王陛下を見て笑みが零れた。
倪下から水の入ったグラスを受け取り、顔を見合わせ微笑んだ。



「な、お前等!面白がってないか!?」

「聞いているのですか!?眞王陛下!!!!!」

「き、聞いている、聞いているから落ち着け、ウルリーケ」




良い薬だねと、倪下の意地悪な言葉に微笑んだ。
ウルリーケは泣き出し、眞王陛下と倪下を困らせるまで怒りはおさまらなかった。
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