恋は盲目。

ブルーベリーとラズベリー。
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「ねぇ、皆さん」


「な、なによ」


「皆さんで私の家に移動しませんか?此処だと…家の執事が来ちゃいますし…」


「奥野くんは休みじゃない」


「はい、今日は泰楽ジュンが代理なんですよ」


「はぁ?ふざけんなよ!?」

「クソが!」







ジョキッジョキッっとハサミが開いたり閉じたり…髪の毛が切られて行くの。

目を閉じて、終わるのを待つ。


油断したわ。
奥野じゃないんだった…

制服は脱がされ、下着も剥がれ…俯いて座っていた。

手足が自由効かないし…





ダメだなぁ…






奥野…助けに来なさいよ……


奥野…奥野っ奥野!







「千代お嬢様!」




「奥野…奥野っ奥野…」


「アナタ達……何をしたんだ?ウチの姫様に」



奥野…助けて…



「俺は女子供でも殴りたいなら殴るからなっ」








学校帰り…ヒメの家に寄って行くの…


だから…




「千代お嬢様…」


「奥野…助けて……」





強がりは崩された。
恐怖が勝って泣きそうだ。



「来ましたよ…千代…帰りましょう」




目隠しが取られると奥野がやさしく微笑んでいた。
私は腕を伸ばして首に抱き着いた。タオルで身体を隠して、私は奥野の肩に涙を落とす。




「うっうぅ……」


























遅かった。

俺達と関わっていた千代はテスト前…誘拐され酷いショックを受けていた。
執事代理を任されていたのに…



「っ……」





トイレだと言って帰ってこなかったのを疑うべきだった。


珍しく服装も髪の毛も崩れた忍は抱えたまま走りながら去った。




「千代ちゃん…見つかった?」



「……王子様が連れていった…」



「え?」


「……泣いていたんだ…怖くて震えていたよ」


「…大丈夫かな……」


「心配するだけ無駄だよ…ナオ」











忍ならって思う自分が居るんだから。
敵うわけないんだよ…アイツは完璧なんだ。

小説や少女漫画に居る…ナイトだから。







「ヒメっ!早く早くっ!」


「千代ちゃん鼻息が…」

「だって…初めてなんだもんっ」






放課後からは忍がずっと傍に居た。事故は寄付金から簡単に揉み消され、女生徒達からは慰謝料が自主的に支払われたらしい。
世界の回り方は案外早いんだなと思った。


千代は何事も無かった様に振る舞っていた。
ただ、俺が近づくと忍に止められる。俺だけじゃないナオやトシも。



「おやつとか買っていかなきゃ!」

「でしたら、千代さんと二人で買い物なんてどうですか?」


「そうしよっ?」


「い、いいのかな?」

「当たり前じゃんっ」

「ヒメっスキーッ」






忍は自分に自信があるから、主を自由にできる。
頭の回転の良さにはびっくりさせられる。


「ジュンも買い物付き合いなさいよ、一日執事さん」

「…え?」

「何間抜けな声出してんの?忍はこの間、仕事で…まさか……私に荷物を持たせるつもり?」


「そんな訳ないよ」


「当然よ!」




無邪気に笑う。
そして忍の横に立つ俺を引っ張る。


忍はいつも通りの表示。


「あ、ジュンは家の前で待ってるのよ?」

「勿論、邪魔したりしないよ」


「よろしい!」




手が震えていて血が通ってるのか怪しいぐらいに冷たい。

だから…後ろから抱き着いた。



「な、なに!?重いってヒメ〜」


「まだ寒いから上着、ちゃんと着なさい」


「き、きます!着ます着ますっ」


「こらっ離れなさいっ!」






ヒメに言われ離れると、忍が上着を肩に上着をかける。
"ありがとう"と言う千代は静かに笑っていた。


「奥野くんって…千代ちゃんラブだよね〜いいなぁ〜」


「ラブ?とは違いますよ」


「そうなの?私はラブよ?」

「私はライクです。」


「え〜そうなの?」


「手のかかる妹みたいなモノですよ」


ため息をつく忍に千代は嬉しそうに笑う。


「妹だって、まぁ私も奥野が彼氏とかは考えた事無いなぁ…」

「え?なんで?」


「ヒメ、執事ってね料理で言う食器なの。料理を引き立てる為にあるモノ、それにはその使命があるものよ?だからもし、私と奥野が恋仲になってしまえばそれは彼の使命が損なわれるわ」


「でも…恋に使命なんか関係なくない?」


「そうね……でも…小さな頃からずっと一緒だし…」


「幼なじみ?」

「うん?兄弟みたいな?もう十年近く一緒に暮らしてるし…」


「十年も!?」


「因みにお兄ちゃんにも奥野のお兄ちゃんが執事だよ?だからね、たまたま私が女だっただけなんだよ」


「…う、うぅ?」



ヒメが混乱しているのを見て忍が息を一つついてニコヤカスマイルをして説明をする。



「わが家は代々千代様のお母様の家で執事をしております。その為に、私達は自ずと千代様やリク様にお使い致すまでです」

「そうなんだ…」


「今の旦那様には良くして頂き我々は四六時中千代様をお任せされたいるのですよ」

「四六時中!?夜とかも!?」

「はい因みに中学一年生後半まで置き替えも手伝っておりました」

「「「「中一まで!?」」」」




「奥野!それは秘密でしょ!」


「失礼しましたお嬢様、ボタンや着物に苦戦するお嬢様はとても可愛らしく…」


「嘘つき…いつも傍でお腹抱えていたじゃない」

「それは愛らしくてです」

「っ〜!」

「ほ、ほんとーに兄弟みたいなんだね」





「えぇ、ですから恋仲は考えた事はありませんよ」





「むぅ…でも一応奥野も婚約者候補なんだよ?主にあんまり失礼な事言わないでよ」



「すみません」




「えっえぇっ!?」



「その話はヒメのお家でしましょ?」








婚約者候補には他の候補は聞かされていない。あぁ、やっぱりか…と思う自分が居て悔しい。

「ほら、なにぼんやりしているのよ!行くわよ」












「はい、お嬢様」



抱きしめて、ずっと傍に置きたい。ただ、傍に居ていつも俺を見て微笑んでくれたら良い。


でも、きっと今は千代になにもしてあげられない。だから…それはただのエゴなんだろう。




護る事さえもままならない。
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