お題

□磔
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処刑の終わった後。
まだ乾ききらぬ血が溜っている広場に、俊宇は立っていた。
ほんの少し前まで生きて、自分に向かって微笑んでくれた愛しい人を思い出しながら。
「…芳准」
大丈夫だから、そう言って出ていった彼。
彼は自分のことは何一つ言わなかった。その証拠に、自分は裁かれていない。
「…にが、何が!大丈夫、や…死んでどないすんねん!アホ…」
俊宇の頬を幾度も涙が伝う。
握り締めた拳には血がにじんで。
それでも彼の慟哭は治まらない。
「う……っ」
芳准には何の罪もない。
それは俊宇が一番よく知っていた。
誰よりも優しくて、人を傷付けることを何よりも恐れる。そんな人だった。
なのに何故彼が死なねばならぬのだ。
俊宇の涙はいつまでも止まらず、芳准の笑顔は永遠に失われた。

真に罪深きは、よく知りもせぬことを己の判断で悪として、片寄った正義で裁きを下す「人」
そして「人」は、その罪に気付くことなく歩み続けるのである。





      END*




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