お題

□磔
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芳准は覚悟を決めたような表情をしていた。
処刑の場に在っても、その顔はうつ向かれることなく、毅然と前を見据えていた。
ゆっくりと、しかし確実に死へと歩む。
十字の形に組まれた木に彼は固定された。
逃げる道などどこにもなく、処刑を見るために集まった人々は優越や愉悦による微笑さえ浮かべていた。
芳准のためにわざわざ造られた銀の槍。それは芳准が吸血鬼であることを示している。
人の血を食らい命を繋げる、哀しい生き物。
人はその哀しさを知らぬが故に、彼を殺すのだ。
ゆっくりと芳准の体に槍が突き刺さる。
銀は芳准の体を蝕み、軈てその瞳から光が消える。
けれど彼は後悔などしていなかった。
彼は、愛しい人を守ったのだから。




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