お題

□本音。建前
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驚いた。
頬に、自分のものじゃない雫が触れたから。
見えない左目に落ちたそれは、ゆっくりと流れて、まるで自分が泣いたかのような錯覚に陥る。
「…翼宿?どうしたのだ…まさか、怪我を…」
仲間の怪我に気付けなかったのか。
術師失格じゃないか。
自分のことで精一杯で、冷静さを欠いていた。
「…お、前が、泣かへんから…っ」
次から次へと降ってくる雫は、雨のようで。
今オレは自分の心の中にいるんだと悟る。
昔は、暗闇だった。
今は、土砂降りか。
「…翼宿…」
自分の代わりに泣いている彼を、愛しいと思うのは変だろうか。
大きな体をして、子どもみたいに泣く彼を、愛しく感じるのは。
右目に熱を感じた。
駄目だ、と何かが警告する。
泣いてしまう。踏み込ませてしまう。
離れなければいけない。それなのに。
体も心も言うことを聞かなくて。
涙が溢れた。






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