お題

□人形-カナシミ-
1ページ/2ページ


例えば、蝶のように自由に生きられたなら。
蝶が自由だなどと、蝶から聞いたわけではないけれど。

人形-カナシミ-


切れない糸に縛られているように、日々が遠いところを流れていく。
此処は何処で、自分は誰なのだろうか。
時は遥か昔に止まったまま、この体を動かすのはただ使命感のみだ。
守らなければ、行かなければ。
何を守りどこに行くのかも判らない継、歩き続ける。
朱い文字が目に見えぬ鎖のごとく四肢を捕え、意思など関係なく全てが進む。
何時から笑っているのだろう。
何時から泣いているのだろう。
自らの名を捨てたのは、いつだったか。
「井宿、」
違う、違うんだ。
「井宿?」
己の名はそれではない。
もう一度だけでいい、己の名を呼んではくれませんか。
「…井宿〜?」
「だ?」
口には出せない。
口には出さない。
糸が切れるまで、使命を終えるまで。
それまでは名など捨てよう。
何がそうさせるのか解らない。
けれど確かに糸は絡み付いてとれないから。
遠いあの日の哀しみを背負ったまま、糸に縛られて日常を過ごすのだ。




     END*



я
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ