お題

□偽善
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差し延べたその手は、貴方を救うためでなく己のこの心を救うため。

偽善



命とはなんて儚いモノなのだろうか。
こんなにも簡単にその灯りは消えてしまう。
「…井宿?」
急に掛けられた声にびくりと身を揺らす。
「おー、やっぱりそうかい。久しぶりやなぁ」
振り向くと其処には嘗ての仲間の顔。
懐かしい笑みを浮かべて、今も昔も変わらぬ強い光を宿した瞳は真っ直ぐに自分を捕えていた。
「…翼宿?なんでこんな所に…」
「こっちのセリフじゃ。久々に山下りたらお前が居んねんから」
苦笑と呼ぶには明るすぎる笑みで背後を指す、その先には山。
下りるための道は数えきれないほどにあり、ここはその内の一つだと教えられる。
「…なるほど」
「それより、何してんのやお前―」
繰り返される問いにただ体を移動させることで答える。
途切れた声に彼がそれを目にしたことを理解する。
「昨日、助けたばかりだったのだが…」
あまりにも儚すぎる命。
まだ幼い鳥の屍。
「先刻見付けたときにはもう…」
一時の情けで命を助けて。その後は知らぬ振り。
結局は苦しみを長引かせただけ。
なんて高慢な善行。いい人を演じて見せただけ、自己満足でしかない。
「…埋めたらなアカンな」
「え?」
深く思考に沈みすぎていきなりの発言に驚く。
「埋めたらな。お前坊さんなんやろ、一応」
言うが早いか小さな穴を掘り亡骸を埋めてささやかな墓を造ってやる。
優しさとはこういうものを言うのだろう。
ぼんやりと眺めているだけの己をふがいなく思う。
翼宿の横にしゃがんで小さな声で経を唱える。
苦しみを長引かせてすまない、と。
冥福を祈るはずの経が、今日はなんだかとても薄っぺらく思えた。




     END*



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