お題

□昨日
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「張宿は子どもだからオイラが付いておくのだ」
組分けは揉めることも無く簡単に決まった。
柳宿が髪を切ってしまったのには驚いたけれど。
張宿を後ろに乗せて、馬をゆっくりと走らせる。
「さて、まずは何処に…」
「…井宿さん」
くるりと振り向いた目に映ったのは、うつ向いた張宿の頭。
「張宿?」
何か思い詰めたような雰囲気に、不安を覚える。
「あのっ!」
急にバッと上げられた張宿の顔の勢いに圧されて、井宿の背がのけぞる。
「な、なんなのだ?」
「…翼宿さんと、何かあったんですか?」
真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐな聞方をする。
あぁ、こういう所はやはり未だ子どもだなどと思考が逸れる。
「…何かって…どうしてそんなこと聞くのだ?」
「あ…いえ、別にいいです!ちょっと気になっただけですから」
子どもは鋭い。
どれほど大人が巧く演じても、その瞳は真実を見抜いている。
「…少し、話しただけなのだ」
ふわり、と微笑む。
気付いていなかったわけじゃない。心配そうな瞳。
翼宿は、昨日のことを心配してるのだろう。
「…そうですか」
張宿は聡いと思う。
こういう時、深く踏み込んでこないから。
張宿が子どもだから、ではなくてオイラが楽だからこの組にしたのかもしれない。
そんな風に思って、少し微笑う。
「…取りあえず、人の沢山居そうな所に行ってみるのだ」
昨日とは違う。
毎日、少しずつ変わっていけているはずだから。
昨日よりも巧く笑えてるはずなんだ。





    END*



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