お題

□明日
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陽がまた沈んだ。
月が輝く空を見上げ、星の中に彼の姿を探した。
寒さで吐く息は白く染まり、上着を着ていても体の芯から凍えてくる。
胸騒ぎを感じて飛び起きた。
辺りを見回すと、一つだけ空っぽの布団。
驚いて、自分も寝床を飛び出した。
「くそ…どこ行きよった…」
探しても探しても人影など見当たらない。
初めて来た地で、彼がどこに居るか分かるほど気に敏感ではない。
息を荒らして走り回ってもその存在の片鱗すら見付けられない。
「井宿っ!!」
もしかしたら、声が届いて此処に現れるかもしれない。
と言うか、もうそれしか手段がない。

いくら待っても現れない井宿に不安を覚え、踵を返そうとしたその時。
「…呼んだのだ?」
急にふわりとその場に降り立った青年。
その顔にいつもの面は無く、声も数段低いもので。
『普段』とは違う、けれどそれも確かに『彼』で。
「…お前なぁ、急に居らんようになったら心配するやんけ…」
「あぁ…夜明けまでには戻るつもりで」
今は未だ薄暗い闇。日付も変わってはいないだろう。
「…せやったら、俺も付きおうたるわ」
細い背中を思いきり叩いて、遠い空を睨みつける。
「…元気になってもらわな困んねん」
頼りにしてるから。
「……ありがとう…」
今は、少し心が揺れているけど。
今日だけだから。
だから…。
だから、明日まで。
暫しの休息を。




     END*





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