お題

□心理
1ページ/2ページ


例えば、泣いてる人が居たとして。
その涙が本物かどうか、どうして見極めることができるだろう。
心が読めるわけでもなしに、と広い庭を眺めながら考える。
雨が降る、生憎の天気のせいで部屋に居るしかなく、そうしてできた暇な時間は、自分を自分でなくさせる。
考え事なんて滅多にしないし、楽しいければそれでいいと思う。
ごちゃごちゃ考えたって、答えがでるとは限らないのだから。
こういう時間に、自分はどうしようもなく独りだ。
元々外で駆け回る方が性にあっているし、読書も難しい話も嫌いだから。
『星宿様は仕事やろ。柳宿は男のくせして後宮に行きよったし…鬼宿と美朱はアカン。オレ邪魔や』
相手をしてくれそうな人物を見付ようとするものの、今日に限って誰も居ない。
『アイツらの話は難しぃてよぉ解らんしな…』
部屋の奥で何やら雑談している三人を見る。
窓際でぼんやり椅子に座り込んでいる自分から三人の座る椅子と卓までは意外と距離があって。
寂しさが募った。
けれど口に出すのはカッコ悪い気がして、何も言えない。
第一、仲間に入れてもらったところで話が解らないのだし。
自分は今どんな顔をしているのかとふと思う。
さぞかし退屈そうな表情だろう。実際、とても退屈だ。

そう考えると、自分は素直なんじゃないだろうか。
喜怒哀楽がはっきり表情にでてしまう。
そのせいで子どもっぽく見えるのか。
なら、他の奴はどうだろう。
張宿は、微笑んでいることが多い。
美朱は、比較的よく表情に表れる。
鬼宿と柳宿は表情はよく変わる。けれど、泣き顔はなくて。
軫宿と井宿に至っては、殆んど変わらない。
軫宿はあの性格だし、表情豊かだとかえって怖い気もする。
井宿は、面のせいだろう。
いつも笑顔の狐面。
あの面の向こうではどんな顔をしているのか。
一番大人で、弱いところなんて無いように見える。
けれど、傷を見てしまったから。
あの、傷は。
まだ痛むのだろうか。傷口は癒えているように見えたけれど。

そこまで考えて自嘲的な笑みを浮かべる。
『しょうもな…考えてもしゃあないやんけ』
明日には朱雀を呼び出すのだ。
そのあと自分は山に帰るのだから。
それで終りなんだから。彼等との関係は。

だから。
今は全て雨のせいにして。
下らない考え事は、水と共に空へ還してしまえばいい。





    END




.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ