リクエスト 4

□魔法の呪文
1ページ/4ページ




「愛してる」

いつでも彼はそう耳元で囁く。そう言われるとどこかムズ痒く、かなり恥かしくて、でも少しだがぽかぽかと胸の奥が暖かくなるのだ。
それはきっと魔法の呪文なのだろう。なのに自分はそれを唱えることができないことに、土方はひどく落ち込んだ。
何故って、恥かしいのだ。それはそれはめっちゃんこ恥かし過ぎて、そんな事を言おうものならきっと自分は悶死してしまう、と土方は本気で思っていた。
どうして彼は平気な顔をして、それを口にできるのだろうか。土方には不思議で堪らなかった。
お前は?と尋ねられるたびに、ただ頷いて好きだとしか言うことの出来ない。やはり、好きと愛してるは違うと思うのだ。土方はあまりにも不甲斐なくて、落ち込むしかない。
それは決して、外見からはわかりはしないだろうが……。
そしてまた、嘆息が落とされる。

「あんた、いい加減になせェ」

すぐ隣りから声が聞こえてきて、土方は吃驚して俯いていた顔を上げる。そこには呆れ返ったような沖田が見下ろしていた。
それにムッとする。

「なんだよ」
「さっきから溜息ばっかじゃねェですかィ。鬱陶しいですぜ」

それに土方はぐっと詰まる。そんなに溜息を吐いてたんだろうか。言われるまで気が付かなかった。確かにそれは鬱陶しいだろう。
ちょっぴり反省したその時、聞き捨てならぬ台詞に土方は目を瞠った。

「アンタがそんなに陰気くせぇから、旦那が浮気するんですぜ」
「…………、は?」
「さっき見廻ってる時に、やけに美人と歩いてんのを見やした」

浮気……?美人……?
土方はそこで思考を止めた。その言葉だけが頭の中をぐるぐる回る。
ガックリと力なく項垂れる土方は、だから自分たちの交際は秘密であるのに何故沖田がその事を知っているのか。そんなところにまで考えは及ばなかったのだ。





.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ