リクエスト 4

□歪んだ愛情
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その男は、本当に非凡だった。
あまりにも平凡すぎる。それが彼の類稀なる才能だ。土方は一目見て、そう看破した。
人に警戒心を持たせぬ平凡な顔立ち。人込みに紛れるとすぐに無くなる存在感。悪くは無い愛想はすぐに人と打ち解ける。そして状況により臨機応変に物事に応じることのできるその頭の柔軟性。
彼は群衆に紛れて情報を収集するにはうってつけの人物だと、土方はそう直感したのだ。
だから彼を諸士調役兼監察頭という重職に就けた。監察は副長直属となり、その人事の一切は土方に一任されている。
彼、山崎は本当によく働いた。危険だと思われる任務にでも、土方に命じられれば嫌な顔一つせずそれをこなす。彼はいつでもそつなく任務を終え、完璧な報告を土方にもたらすのだ。
何時でも報告を持ってくる山崎に労いの言葉をかけると、彼は嬉しそうに笑みを浮かべる。まるで犬が飼い主に褒められて尻尾を振っているかのようなその様子に、土方はいつも微笑ましいものを感じていた。
そして山崎はいつも控えめではあるが、とても気が付く青年だった。荒くれ者が多いこの真選組で、一人で書類作成などの内務を引き受けていた土方のサポートを出来る貴重な存在。
愛飲している煙草が底をつきそうになればいつの間にか補充してあり、特価の時にはマヨネーズを買い溜めしていてくれる。山となった灰皿は雪崩を起こす前にきちんと取り替えられていた。土方はいつでも近藤の女房役と言われるが、土方の女房役といえば山崎以外には考えられない。
そう信じていたのだ。彼を……。





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