リクエスト 4

□Gift
1ページ/3ページ




その日は朝から土方はそわそわしていた。今日は恋人である銀時の誕生日だ。
この日のために10日以上不眠不休で仕事をこなして非番を取った。近藤はそこまでしなくても非番を取ってくれといったが、土方自身がそれを許せなかったのだ。
朝から厨房に篭り、恋人の大好きなケーキを作った。大きな丸いケーキ。デコレーションも思いの他うまくできて、土方は大満足でそれを用意していたピンクのハート型の箱に収めた。
その時だ。突然バタバタとえらく慌てふためいた足音が聞こえてきたのは……。
首を傾げ振り返ると同時に、血相を変えた近藤がすごい勢いで厨房に駆け込んできた。土方はあまりの近藤の慌てぶりに目を丸くする。

「近藤さん。どうしたんだ?」
「きっきっきっき……っ!!」
「……、サル?」

息も絶え絶えの近藤が言わんとすることが分からずに、土方は不思議そうにそう尋ねる。それに近藤はすごい勢いで首を振った。

「来たんだよぉぉぉぉ!!!」
「なにが……?」
「俺か?」

泣き出しそうな近藤がその声を聞いた途端に、ピシリと固まる。なるほど、と、そのあまりにも聞き覚えのある声に土方は妙に納得した。
近藤の後ろに立つその姿に、土方は嘆息をひとつ落とす。

「また仕事をサボってきたんですか?」
「義兄に対して何を言う。ちゃんと非番を取ってきた」

そんなことは自慢にもならないだろうが、彼は自信満々だ。その自信はいったいどこからやってくるのだろう。
目の前で仁王立ちに立つ芹沢とその後ろに控えている新見の姿に、土方は諦め半分の笑みを零した。
それにしても、何故今日に限ってやってきたのだろう?
本当ならすぐにでも銀時の元に向かいたかったが、芹沢がいるのにそんなことができるはずもない。そんなことをすれば近藤がいびり殺されてしまうだろう。もちろん八つ当たりで、だ。
自室で芹沢の相手をしていた土方はふとそんなことを思った。あまりにもタイミングがよすぎないか?公用があったのならまだしも、わざわざ非番を取って今日やってくるなんて、もしかして銀時の誕生日がバレてしまって邪魔をしに来たのだろうか。
じっと芹沢を見ていると、彼もその視線に気付いたのだろう。いきなり後ろに座していた新見からなにやら受け取って差し出してきた。
芹沢が手に持つそれを見た土方の瞳が、突然きらきらと輝く。それは京でも超と名のつく有名店である漬物屋のたくあんだった。土方は幼いころからたくあんに目がない。

「限定品らしい。手に入ったのでな。お前にやろうと思って持ってきたのだ」
「義兄さま!ありがとう!!」

語尾にハートマークが飛ぶ勢いで土方はそれをぎゅっと抱きこんで、満面の笑みを浮かべ礼を述べた。
思い違いだったのだろうか。変に勘繰ってごめんなさい、とこっそりと謝罪しておく。まったく現金なものだ。
だがこのままだと、下手をすると今日中に恋人のもとに行けないかもしれない。仕方がないから後でちゃんと連絡をしておこうと、土方は携帯を握り締めた。
しかしだ。土方のこの心配とは裏腹に芹沢は夕方になると新見を伴い、とっとと京に引き返したのだ。
あの義兄がこんなにあっさりと帰るなんて珍しい。そう思いながらも、それはそれで助かった。誕生日なのだから、やはりその当日に祝わなければ意味がない。
土方は午前中に作っておいたケーキを持って、万事屋に急いだ。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ