17歳 と 19歳 の 日常
□それからとこれから
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ピピピ…と携帯のアラームが鳴り、深く落ちていた意識が呼び戻される。
「ん…」
もぞもぞ手探りで枕元の携帯を取り、それを切るとゆっくりと目を開けた。
「………」
窓から差し込む朝日に目を細め、身体に乗っかっている陽介の腕をどかしてベッドから降りる。
これが今の日常だった。
それからとこれから
顔を洗ってキッチンに向かい、軽くご飯を食べながら陽介の分の朝食を作る。昨日の残りを上手く使って二品くらいあればいいか…と手を動かしていると、寝室のドアが開いてTシャツにパンツというだらしない格好の陽介が大きなあくびをしながら顔を覗かせた。
「ふぁ〜…おはよ…」
「おはよ。ごめん、起こした?今日休みだっけ?」
朝食を盛る食器の準備をしながら話すと陽介は頭を掻きながら隣に立つ。
「ん〜…りせ、昨日ライブだったから今日はオフでそれに伴い俺も休み〜」
「寝てていいのに」
「いや…だいじょぶ」
二十七になった彼は今、久慈川りせというアイドルの専属ヘアメイクをやっている。というものの、もともとファッションやメイクなどに興味があった陽介をりせが「先輩なら多少のワガママ言えるでしょ?」と口説き落としたとの事だった。今ではすっかり技術を身につけてしっかりと働いている。
「嘉さん今日早いね?」
「うん。今日は陸上部の試合について行くんだ」
そして三十路手前の自分は月光館の養護教諭になった。本当は未だシャドウの事件を追う美鶴先輩たち、シャドウワーカーに籍を置きたかったのだがあっさりと断られ、それでも少しでも手助けが出来るようにと医療などを学びこの道を選んだ。月光館なら美鶴先輩にも近く、先輩も喜んでくれた。今では仕事にも慣れて楽しく過ごしている。
「ふ〜ん…あ、待って」
そう言った陽介の手が伸びて髪に触れた。
「寝癖」
「え、どこ?」
「後ろ。直してあげる」
ふと彼が笑って「座ってて」と道具を取りに洗面所へ向かった。
朝食をテーブルに並べ終える頃には陽介の準備も終わってて「どうぞ?」とソファーを勧めた。
「ご飯冷めるよ?」
「冷めても美味しいから大丈夫」
陽介はソファーに座る自分の後ろに立って鼻歌交じりに手で髪を梳いた。
「ちょっと髪の毛伸びたね」
「最近切ってないからね」
「切ってあげよか?」
「お前りせ専属だろ」
「りせも嘉さんならアリだって」
「ふふ。じゃあ時間ある時にでもお願いしようかな」
「お任せあれ」
スプレーの音や櫛の音を聞きながらそんな話をする。しばらくすると「ん」と陽介の手が優しく頭を撫でた。
「はい。今日もかっこいい」
なんだそれ、と思いながらもセットして貰えたことが嬉しくて自然と笑が零れる。
「ありがと」
ソファーから立ち上がり時計を見ると時刻は出発の時間を示す前だった。
「あ、そろそろ行くね」
「はーい」
用意していたジャケットを羽織り鞄を手にして玄関に向かう。その後ろを陽介がぺたぺたと着いて歩いた。
「帰りは?」
「ん〜帰ってくるつもりではあるけど遅くなるかも…ご飯、先食べててもいいよ」
「わかった」
靴を履いて振り返ると壁にもたれた陽介と目が合った。そして優しい目が笑いかける。
「行ってらっしゃい、嘉さん」
「行ってきます」
それだけで始まる幸せな毎日。
[20180812]