頂き物

□山吹様から
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[そして誰もいなくなった]
 


眼前に見えるは死屍累々としか言い様のない惨状。倒れ伏す者の中には、彼の倒したいと狙う兄の姿もあった。どういうことだ、あの男が倒れるなどあってはならない。深い紺色の髪を一つに束ねた青年……スペースゴジラは自分とよく似た男が倒れ伏す姿に絶望した。自分を差し置いて、誰がこんな。
「スペゴジさん……?」
口元を押さえながら弱々しく身体を起こす見知った子供に近付く。この、自分に対し密かに闘志を燃やしている子供が弱っていることを隠そうともせず自分に接してくることは少ない。
「チビゴジ、兄貴をこんな目に合わせたのはどこのどいつだ。この俺を差し置いて舐めやがって……。」
「それは……」
悲痛な面持ちの子供が事の顛末を話し始める。男はいつになく静かにそれを聞いていた。








 
ぐつぐつと音をたてる鍋。皆が材料を一つずつ持ち寄った、所謂闇鍋という奴だ。
件の守護獣はまだ怪獣同士の交流を諦めていないらしい。しかし、今までの失敗を鑑みて、今回の集会の中心には何故か鍋が置かれた。少女曰く、腹が減っては戦は出来ぬ。
そもそも戦をするのであれば前回と同じ轍を踏むということになるのではないか、と男は半ば諦めたような面持ちで目の前の鍋を見つめる。隣に座る同族が不安げな目をしていた。伏せがちな目にうっすらと赤がちらつく。何があろうと、この子だけは守ってみせる。

たとえ、目の前の禍々しい鍋をつつくことになろうとも。

男が意を決して鍋に手を伸ばす。すかさず同族の子供が腕にすがり付いた。
「待った、ジャンケン負けたのは私です。私が食べます。」
「愛してるぞ、ジュニア……」
「駄目です、離しませんよ!!」
「兄弟、止めてやるな……。安心しろ怪獣王、骨は拾ってやるからな……!」
死地に赴くかのような男を涙ぐみながら見つめるラドン。さらにその様子を此度の原因たる少女が見つめる。
「す、すみません、私の鍋のせいでこんなことになるなんて……!」
「てめえらいい加減にしろ! モスラが作った鍋が不味い訳ねえだろうが!」
激昂しているのは黒い守護獣だ。当人はもらい泣きをしている。怒るバトラにゴジラは同じく激昂して返す。
「お前こそよく見ろ、それが食える物の色か!? 何入れたらそんな金属色になるんだ!」
ぐつぐつと音をたてる鍋。その中ではアルミニウムを溶かしたような、銀色のとろみのある液体がぼこぼこと気泡を立てていた。皆が鍋から数メートル離れて見守っている。
「見た目で中身まで判断するんじゃねえ!」
「良いこと言ってるふりするなよ守護獣、食い物には見た目も重要だろうが……!」
「やめてください!!」
険悪な会話に割って入るのは企画立案者の少女だった。
「私が、食べます」
「馬鹿! お前には地球を守る役割があるんだぞ、自分を粗末にするな!」
「てめえもこの鍋やばいと思ってんじゃねーか!」
「最後に味付けをしたのは私です。私には責任がある……!」
「待て、公平にジャンケンで食う順を決めたんだ。こいつから食って然るべきだろ。」
「ぐっ」
ジュニアは苦々しい顔で鍋を見つめる。そもそもこの鍋は闇鍋だ。皆が材料を持ち寄った。無論、ジュニアも。誰が何を持ってきたのか、誰も知らない。ジュニアは野花を入れた覚えがある。
鍋を見つめながらごくりと喉を鳴らす。断じて食欲からではない。
「本気かよ兄弟!」
「待て、お前が食うなら俺が食う!」
ジュニアは無言のまま片足を地面に叩きつけることで強く音をたて、騒ぐ義兄達を遮る。
「ここでやらなきゃ漢じゃないですよ……!」
ジュニアが鍋に箸を突き入れ、何かをつまみ上げた。銀色の液体を滴らせた棒状の何か。ジュニアと別種の義兄が思い付いたように呟く。
「それ足じゃねえ?」
言葉の意味を理解するまでに数刻必要とした。間を置いて、思考が追い付く。



絹を裂くような悲鳴が響いた。

 
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