BLEACH

□お前がこの世界を壊したいのなら
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―――暇だ。

50分間と言う人の一生と比べて見ればちっぽけとも言える時間を私は持て余していた。毎日毎日ほぼ定刻通りに進められてゆく物事。教壇に立ちどのクラスでも同じ事を繰り返す先生。

各々に多少の違いはあるが同じ時間の枠として考えれば全ては等しくなる。皆が何が楽しくてこのループの中で生き続けているのか少し疑問だったが、直ぐにそれを考えるのも止めた。

皆は私のように拘らず、流れに従って生きているのだ。だからループと言う考えも彼らの中に生じる事は無い。それだけの事だ。

単調な作業の繰り返しは好きじゃない。そう思いながらも世界の奔流に逆らう事も出来ずにただ岩のようにその場に留まっている私は何なのだろう。

黒板に書かれた文字の羅列を写す気にもなれず(だって全て教科書通りなんだ)、私は開かれた窓に視線を遣った。何時もならば老若男女(時には動物も)が何とは無しに通り過ぎてゆく様が見えるのに、今日は誰一人いなかった。

彼ら(俗に言う幽霊の類)がいない。その事は私にほんの少しの活力を与えた。ループを外れるきっかけが出来たのかもしれない、そう思うと少し頬が緩んだ。


空の色は相変わらず濁ったような鈍い青色で、雲はのろのろと歩いてゆく。そこに見える筈のものが見えない事にささやかな期待をし、私は尚もその景色を見つめ続けた。何か面白い事は無いだろうか、そんな、確証も無い理由で。


「………あ」

変化は直ぐに見つかった。仮にも授業中であると言うことも忘れ、小さく声を洩らしてしまうほどに『それ』は分かりやすい変化だった。

空中にヒトが浮いている。ヒト、と言ってもそれはきっと私達が言う幽霊、的な存在だろう。まるで生きている様な表情をしていない。

酷く言ってしまえば、生気が無い、とでも言うのだろうか。そのヒトはそんな貌をしていた。

それでもそのヒトは何時も見るような霊的存在よりも遥かに存在感があった。存在しない筈の者に対して言うのも変だけれど、確かにそこに居るのだ。

凝視し続けていたからだろうか、そのヒトはゆっくりと此方に顔を向けた。そのヒトは、私がこれまで生きてきて見た中で最も美しい眸の持ち主だった。

そのヒトと目が合うか合わないかと言う時、終業を告げるチャイムの音が鳴った。私は夢から覚めるかのように肩を跳ねさせていた。それ程私は夢中になっていたのだ。

ガタガタと席を立つ音。鞄に荷物を纏め、下校する生徒。クラスから一人、また一人と去っていく様を見、私は再び視線を窓の外へと向けたが、既にそのヒトの姿はそこに無かった。




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