宝
□叶わずのdesiderio
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『何でも言う事聞くから、今日はここにいてよ』
唯一、あなたはあの時、
俺に縋った。
−−−叶わずのdesiderio
俺には愛する人がいる。
それは可憐な女性。リボーンさんが引き合わせてくれたのが運命。
本当、俺に似つかわしくない。
でも俺は彼女を心から愛してる。だから言ったんだ、十代目に。
俺、結婚します…と。
あなたは心底驚いて、うろたえた。それは目に見えて、気丈に振る舞おうとするあまりに震えてしまう程。でも仕方がないでしょう?
あなたが望んだ事だ。
数年前、あなたが俺を突き放した。
俺にだって、女の一人や二人。あなたを思って禁欲していた頃は、まだガキだった。この身を捧げる相手はあなただけ、なんて。
青臭い事考えて、悶々とした日々を送ってた。
ああ、こんな事ならもっと早くこうしてればよかったと思う。
実らない思いに心を馳せていた事を馬鹿らしく感じてしまうのは、俺が変わったから?
あなたは俺の、きっと華やかになるであろう婚式の前日、言った。
ボンゴレの主である事すら放棄したかのよう。なりふり構わず、
彼女の元へ消えゆく俺を。
縋って引き止めた。
なんでも言う事を聞くだって?
もう遅い。
じゃあどうしてあの時、俺を突き放したりしたんですか。俺はあなたを愛してた。本当は今だって。
なのに、
『…………わかりました…今日は、ここにいます……でも、』
俺の中の黒い部分が、入口をこじ開けて流れ出る。
左右から引っ張られて裂けていく自我。
後は、墜落して木っ端みじんになるのを待つだけ。
『あッあッ…は、』
『や、やめ…ッ獄でら、く…ッ!!』
『やめて…ああッ!!』
ただ体中を貫く痛みに、制止を求めるあなたを、目茶苦茶に抱いた。
その細腰を掴み、何度も最奥を穿った。
欲しくて欲しくて堪らなかった、いっそ憎らしいまでに。あなたが何を思って俺を拒んでいたのかなんて知りたくない。
ただ、引き返せない今になって俺を引き留めるあなたを、卑怯だと思った。
もう堪えるな、欲望のままに汚してしまえ。
最も愛し、最も憎いあなたを。
突き動かされるままの愛撫に、あなたは艶やかに…淫らに咲いた。
『すいません……』
俺は、ドロドロになって呼吸もままならないあなたを前に、ひたすら頭を下げた。
取り返しなどつくはずもない。でも、そうするしかなくて。
あなたを覚えた体が、急速に冷えていく熱が、ただただ切なくて。なのに、
こんな状態であっても、反応を返してくれるあなたは。
『…じ…じゃあ、俺の、言う事、なんでも、…聞いてくれ、…る?』
途切れ途切れに、舌っ足らずな言葉を紡ぐ。
『……はい、なんでも』
俺は直ぐさま顔を上げてうなづいた。
あなたを愛し、憎むあまりに踏み越えてしまった一線を、そんな事で修復できるはずもなかったのだが。
少しでも、その罪を軽くできるのであれば…。
なんて浅はかな、だけど。
『……本当に?』
嗚呼……、何故。
あなたは心から嬉しそうに、強姦した俺を見つめたのだ。
俺は今、幸せとは言わなくても、ちゃんとした家庭を持っている。
相変わらずマフィア家業を続けている俺。家に帰る事は少なく、妻には中々会えないが、可愛い子供だっている。
ふと、あの時のあなたを思い出すんです。
今だ肩書きだけ右腕としてボンゴレに仕えていながら。
以前とは違い、遠くで指揮を取るあなたが…もう俺を見る事はないが。
あなたの願い、聞いてあげられなかった。
そうするには、もう遅過ぎた。
『結婚なんてしないで…俺を見て、俺の傍にいて…お願い、俺と…ずっと…』
どうしてもっと早く。
そう言ってくれなかったのだ、と。
もう今は、思う事すら…。
fin.