宝
□気になる君へ
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「雲雀ー!」
「…………」
「ひーばーりー!」
「…………」
「返事くらいせんか!極限プンスカだぞ!」
「君、うるさいよ。咬み殺していい?」
*気になる君へ*
「っお兄さん!?その傷どうしたんですか?」
顔も身体も絆創膏や包帯まみれの俺に驚く沢田。
「これは勲章なのだ!がははっ!」
「は!?Σ( ̄□ ̄;)」
ぽかんとなった沢田を余所に、俺は清々しい気分で部室へと向かう。
今日はちゃんと話をしてくれた。しかも眼を見てだ。それだけでこの傷の痛みなんか忘れてしまうのだ!
それくらい、最近の俺はアイツ、雲雀恭弥のことが気になっていた。
「並中ー!!、ファイ!!」
「「オー!!」」
部の後輩達にもひとしきり怪我の心配をされてから、いつも練習が始まった。
いつの間にか紅葉し終わった赤や黄色の葉が舞散る中、校庭で走り込む。
冷たい風が肌に突き刺さる様にぶつかってくるが、極限にダッシュを続けるとそれさえ心地よい風に感じる瞬間が好きだ。
「寒さに負けるなーっ!……極限に声を出していけー!!」
凍えながら俺の後ろを走る後輩達に激を飛ばしながらさらに加速する。
その時、ふと、屋上にいる黒い影が目に入った。
「っ………あれは……」
夕日の赤焼けの中に佇むのが人なのだとわかり目を凝らす。
「………ひ、ばり……」
名を口にした途端、眼が離せなくなった。
赤い光に縁取られる表情は真っすぐに俺を見ていたからだ。
「ゼェっ、主将っ、も、もう走り、終わりですかっ?」
「む?」
急に背後からたくさんの息切れが聞こえて振り向く。俺のダッシュに必死についてきた故にバテまくってる後輩達が居た。
「う、うむ!走り込みは終わりだ、部室に戻って自主練をするぞ」
自分の立場を思い出し慌てて次の指示を伝える。
やっとあったかい部屋に入れると歓声を上げながら散り散りに部室に向う部員。
俺はというと、もう一度確かめたくて振り返り屋上を見つめた。
……そこには、誰の姿もなかった。
「……気のせいか?」
首を傾げながら自分も部室に向う。少し、淋しさを感じながら。