FF7 LONG DREAM
□カナリア
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「わ、悪かった…悪かったよ!」
「……………。」
顔面蒼白。
相手が戦意喪失したと解ると、男は剣を戻して何事も無かったように路地を抜けた。
薄暗い路地を出ると、漸く見慣れた砂色の街。
男は早めていた足の速度を落とし、ゆっくりと並ぶ庭先を眺める。
通り過ぎる1軒1軒の庭を覗くのが、何時の頃からの男の楽しみだった。
別に覗きが趣味な訳じゃあない。
人々がどんな風に暮らしているのかが見たかっただけ。
「…求めては壊すだけの、愚かしいボクを許して♪」
「?」
何処からか、歌声が聞こえる。
高くもなく低くもなく―――けれど、女の声だ。
誘われるように人様の庭を見て歩き、1軒の大きな家の庭で洗濯をしている人影を見付ける。
井戸の側で、ジャブジャブと水飛沫を上げて洗濯しながら歌っていた。
(……………。)
珍しい、白い髪と紅い瞳。
みすぼらしい姿をしていたが、何故だか彼女の周りだけ輝いて見えた。
「…だけど、やっぱり、願ってしまうのは
キミの笑顔と
ボクの
しあわせ♪」
ギュッと布を絞った手は、見た事がないくらい荒れていた。
ザバリと濯いだ水を捨て、その人は洗濯物を干すと家の中に消えてしまう。
「……………。」
求めては壊すだけの、愚かしいボクを許して。
だけど、やっぱり、願ってしまうのは、キミの笑顔と、ボクの、しあわせ。
…何処の歌だろうか?
聞いた事がない。
けれど、たったそれだけの短い歌に胸が締め付けられる。
…彼女は、何者だろうか?
この家の娘?―――にしては、家が立派なのにみすぼらしい。
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