婆裟羅 短篇 夢

□彼氏の事情、彼女の事情
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的を射抜く度に悲鳴のような黄色い歓声が響く。

女子部員まで一緒になって騒ぐものだから、わたしは気になって集中できずにいた。



隣で涼しい顔をして易々と的のド真ん中を射抜くのは男子弓道部のエース、猿飛佐助…。










わたしの










すきな、ひと。























オレンジ色の少し長めの髪を黒いヘアバンドで上げて、着崩す事ない袴姿でピンと背筋を伸ばして的を見つめる佐助は凛としていて本当に格好いいと思う。



女の子たちが騒ぐのも無理はない、何でもそつ無くこなせる『デキる男』。



成績は常に上位キープ、スポーツはこの通り、おまけに家事まで完璧で非の打ち所がまるでない。



「どしたの、かのんちゃん?」



何も言わずにジッと見つめるわたしに、佐助は困ったようにへにゃりと笑う。





……………くそぅ。





そんな顔も格好いいと思えてしまうわたしは、相当佐助が好きらしい。

「何でもない」と首を横に振ると「そ?」と短く答えて次の矢を余裕で的の真ん中へ。
外すという事を知らないみたいに綺麗な放物線を描いたソレは、まるで予め軌道が決められているとしか思えない程正確で。
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