婆裟羅 短篇 夢
□FULL MOON KiSS
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婆裟羅大学医学部附属病院第2病棟7F―――。
「ねぇ誰か外来の鍵、持ってない?」
眼科病棟のナースステーションに声を掛けると、齢60を過ぎた定年間近な看護師長がピンクのカーディガンをひらめかせて幾つか鍵の付いたキーホルダーを寄越した。
「それと、かのんちゃん居るかなぁ…櫻井かのんちゃん。眼底写真撮りたいんだけど。」
「指示出てませんでしたから散瞳してませんよ、猿飛先生?」
「いーの、いーの!外来の無散瞳カメラ使うから。」
へにゃりと笑って言えば師長は病室に呼び出しを掛ける。
「櫻井さん?」
『…はい。』
「猿飛先生が検査したいそうなので、ナースステーションまで来られますか?」
『はい。』
その遣り取りを横目で見ながら、ナースステーションに居た入って1年目の看護師と他愛もない会話をして時間を潰す。
数分後、白いワンピースにショールを羽織って長い黒髪を揺らした少女―――に見えるが実は23歳の立派な大人なかのんちゃんが到着。
覚束ない左目で俺様を捕えるや否や。
「せんせー!髪洗いたい、髪っ!」
「何度も言うけど、まだ駄目だって今朝も言ったでしょ!!」
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