FF7 SHORT DREAM SIDE・L

□salty-dog
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…ちりん。

滅多に鳴らない筈の小さなベルが鳴り、咥えようとしていた煙草を灰皿に置いた。



「いらっしゃい。」

「……………。」



草臥れたダークスーツ姿の男。
サングラスで隠された瞳がどんな色を浮かべているのかは解らないが、キョトンとしているのは確かだった。



「…何?」

「いや…ツイてると思って。」

「?」



少々癖のある声。
口元がやわりと弧を描く。



「まさかこんな美人がいるなんてなぁ。」



スラムの、それも路地裏。
本当に真っ当な店なのかも怪しい場所にあった、バーの看板。



「くちが上手いのね。」

「ホントだって…いい女には嘘つかない主義なの、オレ。」

「お世辞でも嬉しいわ、1杯奢ってあげる。」

「そりゃ有り難い。」



低めに流れるジャズ。
グラスに注がれるバーボン。



「名前、訊いても?」

「カノン。貴男は?」

「…エル。」



飲み屋には、しかも場末の下品な店に有りがちの薄暗い明かりの下、男のハニーゴールドの髪が一層深みを増す。



「なんで此処に?こんなとこ、誰も通らないのに。」

「ちょっとね…フラフラしてたら見つけた。お前さんこそ、なんだってこんな所に店出してんのよ?客なんて来ないんじゃないの?」

「出して7年経つけど―――来たのは5〜6人ね。」

「…良く暮らしてけるな。」

「だって道楽だもの。この店が儲かろうと儲かるまいと、わたしには月々収入があるし。」

「………お前さん、パトロンでもいるの?」

「当たり。」



ふにゃりと笑う女は、置き去りにされていた煙草を思い出したかのように咥えた。



「残念。」

「ん?」

「困ってんならオレがパトロンになったげようと思ったのに。」

「1歩遅かったわ。」



女はグラスに氷を入れる。
炭酸水を注ぐ。



「…今の生活に満足か?」

「いいえ。でも仕方ないわ、逃げられない。」

「お前さんを囲ってんの、誰?」

「…知らない方が身の為よ。」



これ以上訊かないで。

女の無言の訴えに、男は何も尋ねなかった。



「ボトル、入れてくんない?」

「…また来るつもり?」

「駄目?」



こてり、と首を傾げて眉尻を下げる男の仕草がやけに子供っぽくて、女は静かに笑う。



「ふふ…物好きな人。」



若い女もいなけりゃ、華やかさもない店。
立地条件は最悪。

そんな場所にまた来ようなんて…。



「もう若くないんだ…騒ぐより静かに飲みたい。」



それには打ってつけの場所だ。



「有り難う。今度来る時は連絡頂戴、貴男の好きな摘み作って待ってるわ。」

「パトロンに聞かれたら殺されそうだな。」

「ふふっ。」




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