×Mukuro
□いちばんほしいもの
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「…これじゃ寝れない」
ツナはそう呟いた。
それは大袈裟な例えではない。
床にもベッドの上にも贈り物が積まれている。
片付けようにも部屋の至る所に箱の山ができている。
書棚の横にスペースはあるものの、横の椅子を半分溶かしている異様なケーキの隣には置きたくなかった。
なぜこんなにも物が部屋に溢れているかというと、今日はツナこと沢田綱吉の誕生日だったからである。
『…今日は床で寝るか』
無理にどけてまでベッドで寝たいわけではない。
さっそく簡易的な寝床を確保して眠りにつこうとしたそんな時。
「…?」
ツナは起き上がり、そっとドアを引いて暗い廊下を覗く。
誰かが歩いていたような気がしたのだ。
しかし、廊下に人の気配はなさそうである。
『気のせいか…』
再びドアを閉めようとした時、二つ先の窓に誰かが佇んでいた。
見覚えのある髪型、横を向いたときに見える赤い瞳。
「…む、くろ?」
おそるおそる声をかけてみた。
呼ばれた相手は別段驚いた様子もなくツナに返事を返してきた。
「おや、貴方も眠れないのですか?」
『も』ということは骸は眠れなかったのだろうか。
「えっと、な…なんとなくさ外が見たくなったから」
「クフフ…ずいぶんと無用心な理由ですね」
そのまま互いに話す内容もなく、気まずい沈黙に陥ってしまった。
ツナは何か話そうと、ちらりと骸のほうを見た。
夜に紛れそうな青藍の髪、また少し高くなった目線。
久しく会っていなかったせいなのか最後にあった日より幾分成長しているように見えた。
ぼうっと夜の景色を見やるその赤い目が、一瞬だけ曇る。