×Mukuro
□短冊一つ、願いなし。
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「柿ピー!たんらくに何書いた?」
「犬、煩い」
夜風がさわさわと葉を揺らす。
今宵は7月7日―俗にいう七夕である。
世間では笹枝に色とりどりの願いを書き込んだ紙などを吊り下げて飾り、その傍らで家族と過ごすらしい。
普段はそんな事に興味が無さそうな骸達三人もそんな周りの様子に少し浮かれてしまったのかもしれない。
暗い雲の隙間から織姫星と彦星が懸命に光を覗かせている。
初めてある国に伝わるという七夕物語を聞いたとき、骸は変だと感じた。
一年と待たずに渡る方法だっていくらでもありそうなのに。
それでも二人がそうしないのは相手を待つ楽しさと寂しさを知っているからだろう。
互いがより強く会えるときを信じているからこそなのだ。
そして、そんな二人の姿を人は美しいと称賛するのだ。
「僕の願い…ですか」
骸は、少し考えてから十枚も渡された色紙を一つ抜きとって裏面に短く書き込む。
再度読み返してからつまらなさそうに色紙を半分に折る。
さらにそれを細長い紙ヒコーキにしてから適当な場所へ飛ばした。
なぜなら、それはもうすぐ叶えられる願いだったからだ。
『このセカイが滅ぶ瞬間に見る、あの星も美しいといいですね』
何億年も前に放たれた光が儚く輝く天井を見上げて、ぽつりと骸はそう呟いた。
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