グレキ別書庫

□An a chance meeting.
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――その少年が次に意識を取り戻したのは、温かいベッドの上だった。誰かの家、寝室らしい部屋で見た天井は白く、窓辺からは建物と月の発する明かりが見える。

「…」

しばらくぼうっとして天井を見つめていると、部屋のドアが開く音がした。

「ああ…良かった。目を覚ましたんだな」

トレーの上に二人分のマグカップを乗せて近付いてきたのは、少年が気を失う直前に見た眼鏡の男性だった。白いワイシャツにスラックスという簡単な格好で金髪にタオルを掛けていることから、彼がシャワーでも浴びてきたのだと分かる。

「ココアじゃなくて悪いんだが…コーヒーは飲めるか?」

ベッドサイドの小さなテーブルの上に運んできたトレーを置いて、ストーブをベッドの近くに持って来てくれている男性に言葉を返せないまま、ただその動作を目で追っていると「温かいうちに飲むといい」と声をかけられるので、言われるがままゆっくりとベッドから体を起こす。その時点で初めて、自分が彼と同じような服を着ているのに気付いた。

「服…」

「ああ、悪いな…俺の服は少し…いや、大分大きいか」

身長差のせいでぶかぶかになっている服からは、洗濯物の清潔な香りとこの男性のものであろう優しい匂いが感じられて心地良い。
と、そこではっと気付く。自分がこんな服を着ていると言うことは、この男性が着替えさせてくれた。つまりこの男性は、自分の身体を見て、間違いなく触れたと言うことだ。
そこに結論が行きついた途端少年の今までの記憶がフラッシュバックし、ベッドから飛び起きて突然男の前に膝をついた。

「ご、ご主人さま…ぼ…僕の体は…気持ちよかった…ですか…?」

「…んん?何のことだ?」

「え…」

床に腰を落ち着け自分の濡れた髪をタオルで拭いているグレイブは「何のことを言っている?」と言う風に答えると、少年は心底意外そうに目を丸くした後、「何でもないんです」恥ずかしそうに目を逸らして礼と共に温かいマグカップを受け取り、そこに口をつけてゆっくりとコーヒーを飲み始める。
名も知らぬ少年のその無垢な表情に微笑みながらグレイブも自分のカップに口を付けるが、彼の言った意味が分からない訳ではなかった。なぜなら彼を自宅に連れ帰って雨に濡れた服を脱がせた際、よく見ると全身至るところに縄で縛られた痕や鬱血による痕が見られ、下半身の局部に至っては赤く腫れ上がってすらいたからだ。

『…彼がどんな生活をしていたのか…嫌でも分かってしまう…』

表情には出さないまま「今度はココアを用意しておくからな」と言ってやれば、少年はまた以外そうな顔をする。その反応からして男に優しくされたことがないのだろうと思うと、切なくなった。自分がもっと早く彼を見つけていたら、きっと彼はそんな思いなどすることはなかったのだろうにと。
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