Short小説
□静寂の中に
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俺の時間は進んでいる。
子供の俺は大人の俺へ。
静かに、確かに、
時を歩んでいる。
静寂の中に
パパァー――……。
人込みを交わしながらなんとか電車の中に入ると、途端にドアは閉まった。
今日も平日だから満員だ。でもいつもよりは窮屈じゃない。
俺は久々に実家に帰ってきた。
高校卒業と同時にプロ入りし寮生活をしていた俺も、今ではいわゆる高層ビルってやつに住んでいて、一人暮らしも板についてきていたりする。
だから、ここにはほとんど帰らなくなっていた。
年に一度のこの日を除いては…。
数日前にやってくる俺の誕生日。
つい先日、俺も28歳になった。高校生のときと比べると背だって見違えるほど伸びたし、力だってものすごく強くなった。それは、プロになってからも鍛練してきた賜物だって思っている。
ふと、窓越しに空を見た。そこには透き通った青い空に、綿菓子みたいな白い雲が浮かんでいた。
あの日と、どこか似ている空だと思った。
ガタンゴトンッと電車に揺られ、時々プシューとドアの開閉の音が聞こえる。
一定を保ったリズムに、俺は壁に寄り掛かってゆっくりと目を閉じていた。
瞼の裏は暗くて何も見えないはずなのに、なぜだか徐々に光りが差し込んでくるような。
幻覚なのかな?微かに懐かしい土の匂いもする…。
そう思っていると、遠くの方でプシューという音が聞こえた。
ザッザッザッ!
ザザァ――…!!
今の一回り小さい俺がベースを駆けていた。
ベンチにはみんながいて、声の限りに応援をしている。ホームベースには次の打順である花井が立っていた。
あれは…、高校生のときの俺たちだ。
ネクストバッターボックスからホームベースへと花井が移動する。
―――花井。
長身で、少し痩せている坊主の花井。
あの頃のままだ。
つま先から徐々に目線を上げていく。そうして顔を見、目元へやるとアイツもこっちを見てきて、ゆっくりと静かに頷いた。
本当に、あの頃のままだ。
真っすぐと俺を見つめる瞳。この瞳が、本当に大好きだったんだ。
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