Short小説

□僕等は紅く流されていく
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カリカリカリカリ…ピリッ、ピリ…カリカリカリカリ


 ――――なんだろ、

   この音――…。








僕等はく流されていく







田島は目の前にいる恋人を眺めていた。


ここは教室で、今日はミーティングの日だ。
だから、皆放課後という貴重な休みをどう過ごそうかと期待に胸を膨らませていつもより軽やかに教室から帰っていった。そのため今ここにいるのは田島と花井だけしかいない。

水谷や泉にどっか食いに行こうと誘われたけどすぐさま断った。いつもなら真っ先に飛び付くのに珍しいと二人は思ったが、田島の視線の先を見て、そうだっけなーと納得し次に仲良くなーと言って帰っていった。


目線の先には我等が主将であり、恋人である花井の姿。

花井はミーティングの内容を忘れないうちに書いてしまおうと、部誌の後ろページに備えられているノート部分につらつらと書き始めていた。
ミーティングのことに関しては主将である花井が書くことになっているため、必然的に毎週花井だけが教室に残ることになる。


二人の仲は周知のことだから、最近は専ら最後まで花井のことを待っていた。
花井は田島に誘いを断らせることなるからと、待たなくていいよと言ったものの、彼氏なんだからいいんだ!と言われて顔を赤面させ、今では花井にとって田島がそこにいてくれることが当たり前になっている。


二人の間には言葉はない。


けれど、気まずい雰囲気なんてなくて、田島にとっても花井にとってもそれは穏やかな空間になっていた。

二人がいる教室には、花井が走らせるシャーペンの音と二人の息遣いが響く。

それは週に一度しか味わえない感覚――…。




けれど、今日は違った。この中でもう一つ別の音を見つけたのだ。





一生懸命シャーペンを走らせている花井。
真っすぐに部誌を見つめる瞳は、睫毛によってこちらからは見えない。
筋の通った鼻を見、ほんのりと染まった桃色の頬を見る。
そうして視線を僅かに下へとずらせば、そこにはぷっくりとした唇があった。

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