Short小説

□無邪気に歪んで、
1ページ/6ページ



「なぁなぁ、ここは?」

「ん〜。これは、この文法から…」

「…へぇー。んじゃ、こぅすんのか?」

「そぅそう!」





無邪気にんで、




俺達は放課後の夕日が差し込む教室にいた。
なぜこんな時間にこんな所にいるのかと言ったら、まずは部活が休みだから。そんで、田島の勉強に付き合っているからだ。

俺のすぐ隣にツクツクとした黒髪が目に入る。ソイツは右利きのくせに左手でペンを回していた。

「ほら、ペンなんか回してないで次やれ、次」

「ん〜、わかんねぇよー花井」

「だぁから、ここは…」

「…そっかぁ!」

ガリガリとペンの音が教室の中で響いていた。






……「イヤッタァ!!」

「ようやく終わったな!」
「花井ゲンミツにサンキュー」

田島は、バタンッと教科書を勢いよく閉じる。
見れば、田島の後ろにある窓からはすっかり暗くなった空が顔を覗かせていた。
いつの間にか自分も夢中になっていたらしく、時計を見ると始めてからかなりの時間が過ぎていた。

今日は早く帰るつもりだったんだけどなぁと、ふと頭をよぎったが、田島のあんまりにも嬉しそうな顔に、まぁ、いっか。と一息を漏らした。

「お前、この前ヤバかったんだから、今回頑張れよ」

「花井が手伝ってくれたんだからアッタリマエだろ」

“今回”というのは他でもない。“前回”があるのだ。
そもそもなぜ部活が休みなのかと言えば、それは明日に定期テストを控えているからで。
田島は根っからのノーテンキらしく、少ない範囲から出される定期テストでさえ全く勉強していなかった。偶然俺が田島に尋ねなかったら、コイツのことだ。絶対そのまま明日を迎えていただろう。

全く。
コイツはもう少し危機感ってやつを持ってほしい。いくら定期であってもテストはテスト。悪ければ補習を受けなければならない。
ただでさえ練習時間の確保のために朝5時頃から学校に集まって猛練習し、休みもテストの前日だけ。それなのに補習なんかやられたらたまったもんじゃない!

しかも、コイツはただの部員ではなく俺達の4番なんだ!一方的にとはいえ、俺のライバルが、んな情けないことになるなんて俺が耐えられんわ!!
と、いうわけで、俺は田島の勉強に付き合ったのだった。

.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ