Short小説

□きゃっほーい企画!
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ななななんと!
黒水流さんとリレー小説でございます!
大人田花ですよ。大人!もう感激です。
前半を流さんに、後半を私が担当いたしました。
流さんのリードのおかげで出来た作品。ぜひぜひお楽しみ下さいね。

黒水流さん、改めて素敵企画ありがとうございました!

それではそれでは。
(※ブラウザバックでお戻り下さい)









高校を出てから二年経つ。
いつ見ても変わらない星空の下を、白息を眺めながら歩く。

暖冬という言葉がテレビ画面に踊っているけれど、やっぱり寒いものは寒い。

肩をすぼめながら、少し郊外にあるマンションへと足を運んだ。

贅沢な生活かな、と思う時もあるけれど、
まぁ、俺が買ったワケじゃないし。

エレベーターを降りて、既に開錠されていたドアを開けた。

「おかえりー。」

リビングに続くドアを開けると、ソファーから覗く満面の笑み。
そして、「腹へったー」と子供のように言って、立ち上がる。

「お前なぁ……他に言う事無いのかよ。」

呆れ半分、駆け寄ってきた体を抱きしめた。

また、大きくなった。

体格差は幾分もなくて、寧ろ俺のが細いんじゃないかってくらい。

直ぐさま近づいてくる顔を片手で追いやった。

「…会いたかったよ、あずさ。」

少しくぐもった声で、そいつが言う。

落ち着いた低い声。
あの頃とは随分変わったよな。

「ゆういちろ…苦しい…。」
体を引き離そうとするが、叶わなかった。

「ね、テレビ見ててくれた?」

キラキラとした眼で見詰められる。
ため息の次に、彼の腕の中で頷く。
すると、「よかったー」という安堵のため息と一緒に、もう一度抱きしめられた。

悠一郎…田島は高校を出た後、プロへと進んだ。
もちろん野球の。

まだ少しずつではあるけれど、試合にも出てる。

そんな日俺は早々に帰宅してテレビをつけたり、帰れない日はケータイの液晶にかじりついたりして応援していた。

今日はシーズンオフで、久々に二人で住む(普段はほぼ俺の一人暮らし)マンションに帰って来たのだ。

「そろそろ離せ、苦しい。」

背中を叩いて促すと、あっさり身を引いた。

「おつかれさま〜。お帰り。」
やっと労いの言葉を言えた。

「ただいま。」
田島は鮮やかに笑う。
二人で顔を見合わせて、照れ笑い。

背中に回した手を離して、俺はキッチンへ向かう。

カウンターの向こうから、悠一郎が頬杖をついて見ていた。

「夕飯なに?」
「何がいい?」
「ん…にく。」

まるで子供みたいな返事に、思わず笑った。それから、たっぷり野菜を入れてやることにする。

そういえば、向こうではバランスの取れた食事をしていたのだろうか。

メールや電話はしていたけれど、俺も忙しくて、そこまで気にしてやれなかった。

包丁を動かす手が鈍くなる。

どうして田島はわざわざこんな不便な所にマンションを買ったんだろう。

考えてみれば、おかしな話しだ。
買った本人は遠くて不便だと、シーズン中は別の借家に身を置いていた。

そんな手間のかかること、普通はしないだろう。
おまけに、俺の通う大学からも少々遠い。

「あぁっ!」

唐突に悠一郎が叫んで、刻んでいたニンジンが不自然な音を立てた。

不格好なニンジンから眼を離して悠一郎の姿を探すと、
怪訝そうな眼で俺を見ていた。

その手には棚に置いてあったはずの時計と写真立て。

「浮気かっ!?」
「はぁ?」

悠一郎の突拍子もない言葉に、口が塞がらなくなる。

「何をどうすればそういう解釈になるんだよ…。」

すると悠一郎はそれを持ったままドスドスとカウンターに近寄ってきて

「こんなの前に見たことないし、ピンクじゃん!」

ドンっ、と勢いよくそれらを置いた。

「…あのなぁ……」

呟いて、左腕の袖を捲りあげる。
そこには、少しくすんでしまったけれど、柔らかなピンク色のミサンガ。

「これ見た大学の奴らが『ピンク好きなんだろ』てからかって、誕生日にくれたんだよ。」

皮肉たっぷりに言って、袖をおろした。

別にピンク色もミサンガも、何も怨んでるワケじゃない。

ただ……

「なぁんだ。やっぱ皆そう思ってんだよ。梓はピンクが似合うって!」

悠一郎が何度も頷きながら、何事もなかったように言う。

「いや、似合うわけねーだろ!!」

俺はそれに噛み付いて、ユニフォーム姿の同級生達が笑いかける写真立てを倒した。

「そんなことねーって!」

悠一郎は強気に言い返して、写真立てを起こす。

そして「懐かしいなぁ」とか呟きながら、少しだけ淋しげに笑った。

その手首には、もうすぐ切れてしまいそうな空色のミサンガが揺れていた。


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