Short小説
□そうして夜は更けていく
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そうして夜は更けていく
薄暗い部屋。うっすらと浮かび上がる白い天井に布の擦れる音。たまに車が走り抜けるのが聞こえて、それからそれから、さっきからうるさいって言いたくなるくらいの時計の秒針。
カチカチカチカチ
別に普段は気にしない。っていうかまず気になんないし。なのに今は耳障りってくらいに聞こえてくる。
あぁーもう!
これで何度目だ。さっきから寝返りばっか。少しだけ目を開いたら見たくもないのに時計と鉢合わせ。
2時18分。言うまでもなく午前の2時。
もう今日の朝練はぜってぇ寝坊決定。いや、まずはこのまま眠れなかったら確実に部活に支障をきたす。
そうしたら待ってるのはあのおおよそ人とは思えない程の握力だ。下手したらその日一日中頭痛と隣り合わせになる。それだけはなんとしてでも避けたい!
カーテン越に外灯と月明かりが僅かに差し込み、見慣れた光景をただ眺めてまた、寝返りを一つ。
目を閉じて再び羊でも数えようか。頭をよぎってけどどうせこれじゃあ眠れないからと深く息を吐いた。
だいたい、アイツが。
こんなにも俺を悩ませる元凶が思い浮かんで、瞬間顔が熱くなって布団にバフッと潜り込む。埃がたつとかそんなこと今は考えていられるか。
ダメだダメだダメだ。ぎゅっと目をきつく瞑ってもアイツの顔がちらついて全くどうしてくれよう俺の脳みそは。
ドクドクドクッなんて鼓動までうるさくなりやがって安眠妨害にも程がある!
『はないが…、花井が好きなんだ』
弱々しく紡がれた言葉。いつもの田島とは思えないくらい掠れて今にも泣きそうだった。
『ごめん。ごめんよ花井。でも俺はもう』
『この気持ちにフタなんて出来ないんだ。ねぇ、どうしよう。俺どうしたらいい…?』
どーしたらいいかなんてわかるはずないじゃないか。俺がどーしたらいいんだって。そんなこと、今更そんなこと言われたって。今までみたいに仲間とかライバルとかじゃ駄目なのかよ…っ。
ぷはぁっ!
息苦しくなって布団から這い出る。酸素が足りなくてぼぉっとした頭。荒くなった呼吸と依然バクバク鳴り続けて仕方ない鼓動。
ちっくしょ。なんだってこんなに。さっきから脈打ちすぎなんだよ。もしこれで寿命が減ったらどーしてくれるんだ。
カチカチカチカチ…
俺を取り残して時間だけが過ぎていく。あんな顔、あんな声は反則なんだっつうの。
まだ、この気持ちに気付きたくなんてないのに。
も。どんな顔して会えばいいかわかんねぇよ。
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そうして夜は更けていく。
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