Short小説
□強敵はプロテイン
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今日も僕等は真っ直ぐに。
ひたすら走って駆け抜けて。
けれど最大の敵が立ちはだかる。
やつの名はプロテイン!
強敵はプロテイン
「おい!お前まだダダこねてんのか!」
「イーヤーダー!ぜってぇ飲まない!」
部活が終わって間もない頃、部室にはこんな声が木霊した。ここ最近はずっーとそうなので皆はまたかと特に気にかけている様子もない。
二人の間には小さな四角い箱。しかしそれが何よりもネックだった。
そう。それはドがつく程不味いプロテイン。
田島と同じように飲むはめになっている阿部と三橋はさっきからバットでソレを潰している。三橋は上手くやれないようで時折阿部が手伝っていた。
しかし田島は違った。
断固として動こうとしないのだ。座り込みを決め込んで隣にいる長身坊主をさっきから困らっせぱなし。いつもならモモカンがこの辺で強制的に飲ませるが、あいにく今日はいない。だからこそ花井は主将がしっかりしなければと思うのに、それを田島ときたら。
「いい加減にしろ。飲まねぇとデカくなんねぇぞ」
「うっ。こ、こんなん飲むくらいなら伸びなくていい!」
「はぁ〜〜〜…」
これみよがしに大きなため息を一つ。花井は田島のプロテインをとるといつものようにバットと紙を使って細かく砕き始めた。
「毎日毎日…」
ガリッ
「手間かけさせんなよ。これぐらい自分で出来んだろ?」
ゴリッ、ゴリガリ
「花井はそいつを食ってねぇからそんなこと言えるんだ」
―ゴフッ。ゲホゲホ
田島の後ろの方で阿部と三橋のむせる声が響く。
ガキッ
「そんなに不味いのかよ」
パキンッ
「ド!!不味い」
コンコンコン―
「そりゃあご愁傷様。ほら出来たぞ」
「う゛ぅ〜」
目の前に差し出された粉。でもどうしても飲みたくない。包みを渡された田島は本気で嫌らしく半泣き状態に。
今日だけでも飲みたくない!どうしよう。
田島は今、そんなことを考えていた。
そうして思い付いたのだった。
「は〜ない!」
そう言って勢いよく水と粉を口の中に含ませる。次にニヤリと口端を上げると花井の襟元を思いっ切り引っ張った。
「うわっ」
呼ばれて田島の方に顔を向けていた花井に逃げ場はない。引っ張られて首が痛いとか腰が痛いと思う暇もなく次の瞬間口の中に苦々しいものが流れ込む。
「なっ!…んぅ!んんー」
田島の腕や肩を叩いて離れようとするがしっかりと腰と襟首を固定されびくともしない。流し込まれるソレを花井はなす術もなく受け取るしか出来なかった。
ゴクンッ。
「う゛っ。う゛ぇ〜」
余りの不味さに目がチカチカする。しかも大半のプロテインを流し込まれたせいで口に広がる苦さが鼻についてはなれない。
なんて後味が最悪なんだ!!
「な!不味いだろ?」
むせる花井とは対照的に当の田島はケロリとした口調で楽天的。
さらに言えば最近練習に忙しかったため出来ていなかった久々のキスに大層ご満悦な様子さえうかがわせる。
「〜っ」
未だに口を開けずにいる花井としては悔しくて仕方がない。こんのーという思いと共に、目に涙をたっぷりと乗せて力一杯その頭にゲンコツを降らせた。
「イッデェーー!」
鈍い音と田島の苦虫を潰したようなくぐもった声。
手で押さえたそこには大きな大きなコブ。今身長を測れば間違いなしに数センチは伸びている。
「ヒデェ花井」
「こっ、こっちの、台詞、だ!」
そこまで不味かったのかと問いたくなるぐらい肩を弾ませて。
しかし、ここが部室だということを忘れてはいけない。
何が悲しくて男同士のちゅーを見なければならないのか。
周りの部員たちはトホホッと見て見ぬふりをした。
結局それから数日間花井は田島のプロテインを砕いてあげなかったという。
田島の敵はプロテイン。
明日はどうやってこいつを飲まずに済ませるのか。
そして花井の運命は!?
部員達の安息は!?
すべては明日にならなければわからない。
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