Short小説
□ぬくぬくホカホカ
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この頃急激に寒くなって、今日もまたいつもの朝練があるというのに俺もアイツもまだ起き出さない。
目が覚めてからそんなに経っていないと思う。
シーツに顔を埋めながら下に落ちているワイシャツに手を伸ばした。
着るわけじゃないけどシワになったら嫌だから片手だけで大まかに畳んでおく。
とりあえず腰が痛い。
まずいなぁ…と思い、ゆっくりと撫でた。
そんな俺をよそにこの痛みを作った張本人は未だ眠ったまま。
「ん…」
「……」
モゾモゾ
声と共に真横から聞こえ始める音。寒さのせいかすっぽりと布団にくるまっているアイツ。
「…たじま?」
ようやく起きたのかと思ってそこに向かって小さく呼んでみると、中から腕が生えてきた。
「んぅ…」
片腕だけが何かを探すように左右に動く。一種のホラーのような動き。端から見たらけっこう怖いかもしんない。
そんなことを思っていると自分の腕をその手が掠め、次の瞬間ガシッと掴まれた。
「た、田島?」
「………」
起きたわけでもなく、かといって熟睡しているわけでもなく。クイッと引っ張ってみても放れない。
何度か繰り返してみたが、結果は変わらなかった。
いや、結果は逆にベッドの中に引きずり込まれた。
だからどんなホラーなんだ。これは!
って悠長にしている場合じゃない。
突如奪われた視界。
真っ暗の中で動く物体。(といっても田島なのはわかっているんだけれど)これで驚かないやつがいるだろうか。もしそんなやつがいたら見てみたい。
とにかくベッドから這い出そうとジタバタしたら何かが首に、身体に巻き付いてきた。
「っ…」
柔らかな感触。
伝わってくる自分より少しだけ高い熱。
なんか心地いい。
無意識のうちに求められ、抱き寄ってくるソイツは俺の胸の中にするりと入って再び寝息をたて始めた。
しょうがないな。
田島の熱を感じながらそう思う。
………、
これも仕方がないよな。
次にソレが頭を掠めて、そうして自分がこれからすることに言い訳をした。
だって朝が寒いから。
だって視界が真っ暗だから。
だってまだちょっとだけ時間に余裕があるから。
だって、
この場所はこんなにも温かいから。
だからこれは仕方がない。
甘いな、自分も。
頭の片隅にそう浮かんだけれど、いろんな仕方がないことを理由にして自分も田島を抱きしめた。
そう。しょうがないのさ。
田島が好きなんだから。
腰は痛いし、起きたら文句を言ってやろう。
きっと、ごめーん!とか悪びれもなく言うんだろうな。そしたら絶対俺はじと目でコイツを見るんだ。
だから、まだコイツが寝ぼけているうちに少しだけ素直になろうか。
そっと抱きしめると田島はギュッと抱きしめ返してくれた。
暗さに慣れた目で田島を見て、嬉しくて田島のゴワゴワとした髪に顔を埋めた。
チクチクするけど、それすらもなんだか嬉しい。
腕の中にいる田島が楽しい夢でも見ているのかエへへっと笑った。
その夢に、俺はいるか?
田島。
*****
大好き
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