Short小説2

□恋せよ少年。
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(※)オリジナルキャラ、微下ネタ有です。





どんなもんだって。
好きなやつからもらったものならもう。

喜ぶなってのが無理だって!!



せよ少年。



今日の男子はどっかそわそわ。
女の子はほっぺたを桃色に染めちゃって。
まぁ、かくゆー俺もそわそわドキドキしちゃってたワケなんだけれども。

「…もらえるワケ、ないんだよなぁ」

ふぁ。ゴンッ。ぺたり。
夕日をバックに〜なんてカッコよく言ってみても様にならないくらい、気持ち的に期待1に対して諦めてるのは9。俺は仲良く机と額をくっつけた。
朝から色めきたってわいのわいの騒がしかった教室も放課後になってからはようやく疎らになってきた。
それでも廊下の方じゃどこか甘い会話が聞こえてきたり、はたまたお返しは3倍ね〜なんて笑いを含んだ言葉が飛び交っているのは変わらない。
浜田や泉はほんの少し前に呼び出されて出て行ったし、三橋は阿部が迎えに来てブツをエサに、したんだろうなたぶん、早々連れてった。
そりゃぁ今日だもんわからないでもない。

俺だって中学のときはこんな感じだったし。いつもより女の子が可愛くなって、んで何よりお菓子まで手に入る。
シシュンキで食べ盛りの俺にとってこの日は結構待ち遠しかったりしてたんだ。
でも。今年は違ってたり。ね。

「おー?田島、お前まだ居たのかよ。いつも真っ直ぐ部活に行っちまってまず居ねぇのに」

「しかもなんだその面。あ〜、さてはお前、もらえなかったのかぁ?」

帰ってきたのは小ぶりの箱やリボンのついた袋を引っ提げたクラスメイト。その顔はニヤニヤまんざらでもない感じだった。
さっきまでいかにもとお互い見せつけ合うみたいにしてさ、それからそそくさ鞄にしまって。やっぱり誰かに言いたいんだろうな。今度の標的は俺ってわけだ?

「・・・断った」

「は?」

「全部。断ったの」

「誰が?誰の?」

「だぁかぁらぁ俺が。女の子からのチョコレート」

「「なんで?!」」

ちくしょう。もったいねぇ!なんて叫ばないでよ。しかもちょっ。万年空腹児なのにってなんだ聞こえてるんだけどコノヤロウ。
断る理由?そんなもん決まってるじゃんか。

「あー!もう!今年は欲しいやつからしかもらわないことにしたの!悪い?!」

「わ、って。悪かねぇけど」

「でも別に全部本命ってワケじゃねぇんだから、義理はもらっとけばよかったじゃねぇか」

「…。なんか。悪い気がしたんだよ」

「それって、その欲しいやつ?」

机に顔を乗せたまま、頬袋をめいっぱい膨らませてからぶっすぅと中の息を吐く。
そうしたら二人が覗き込んでくるもんだから、うわ、も、絶対ミケン?がひどいことになってるなって。めちゃくちゃ渋い顔になったのが自分でもわかった。

「あ〜…つまり。アレか」

「そうまでしたのに肝心のその子からもらえなかったと」

うっ。二人してなにその目。俺泣きそうなんだけど。
でも、いいんだ。

「わかってたから別に。そりゃもらえたら天地がひっくり返るくらい嬉しいしホームランも打っちゃうくらい俺、うん、嬉しいけど。でも片思いだし」

「田島」

「お前が天地なんて難しい言葉を使うくらいなんて…」

「ちょっ!シリアスな感じを壊すなよ!」

「あ。すまん。慰めようかと思って」

こ、このやろー。自分は好きだった子からもらえたからってふざけるんだもんな。
あーもう。昼間にさんざんチョコをせがんだあげく怒られたから、部活行くのセツナくて泉を待って時間を稼ごうとここにいたけど、思い切って行けばよかったかも。
球を打ってる間はこんな気持ち、忘れられるんだから。
それに、行けば花井に、

「・・・」

「どうした?田島」

「もし、かしてマジ傷ついちゃったとか?わっ、悪かったって冗談だよ」

「ごめん。俺、部活行くから。じゃ!」

「え、おい!」

あいつら、なんだか慌てていたようだったけど二人のことは既に俺の目にも耳にも情報として入ってこなかった。

ただ胸がいっぱいで、さっきまでのセツナイとか諦めとか、んなもんよりもただ、あの大好きな笑顔や困った顔、怒った顔が頭に浮かんできて、部活に行けば花井に会える、そう思ったら身体が動いてた。
花井に会うのがセツナかったはずなのに…。
廊下から階段、ロータリー、先生が走るんじゃないっていう言葉も通り過ぎて。
そこで俺は。
思い出したんだ。ううん気付いたんだ。

俺はいつも。朝練だけじゃない。休み時間毎に7組に行って花井に会っている。
そんでいつもノートを見せてもらったり食べ物をねだった。
あいつは、花井は、やっぱり最初は小言を言うけれど結局あのハの字眉で苦笑しながらノートを貸してくれて、それからこの前。そうこの前、持ってけって飴を一個くれたんだ。
それはのど飴で、でもいつも花井が食べていたミントじゃないハチミツで、これなら俺も食べられるんだって言ったことがあったやつだった。
だから思わずじっと飴を見ちゃって、そしたら花井が、

『お前、それは平気だった言ってたろ。それでしばらくは我慢。な?』

って、袋を見せて俺だってミント我慢したんだからフェアだ、なんて、笑ったんだ。

そんな花井に阿部が過保護すぎるとぼやいて、ならお前はどうなんだと花井が言い返して、水谷は珍しくどっちもどっちだと突っ込んで、(確かそのあと阿部にこっぴどくクソレ呼ばわりされてたような)俺はもう花井に飛びついて、掻き抱いて、大好き!って叫びたかったのを数少ないリセイで抑え込んだ。その代り飴が包装紙の中で溶けちゃうんじゃないかくらい握り締めた。

花井が俺のことを考えてくれた。
花井が俺のためにミントじゃなくてハチミツを選んだ。
今日だってチョコじゃないけど花井が俺にこの飴をくれたじゃないか。
花井が、花井が。

俺は、

「花井が好き」

走りながら、呼吸するみたいにするりと漏れた。
そうだ好きだ。チョコをもらえたもらえないは関係ない。
どっちにしろ好きなんだから。
馬鹿だ俺。なにうじうじしてたんだろう。こんなに大切なのことがあったのに。

早く花井に会いたい。



「花井ーーーー!」

叫ぶ声の限り。部室前、だんだん大きくなる影は振り返り何かを叫び返す。
え?そんな大きな声で名前を呼ぶな?恥ずかしいって?

「はないーーーーー!」

あああ。きっと全身真っ赤になっているんだろうな。ふは。頭から湯気でも出たりして。

手を振る。走る。大好きな花井がどんどん大きくなる。
嬉しい。楽しい。腹の底から笑いが込み上げてくる。
ホント、なに勝手に落ち込んで勝手に盛り上がっているんだろう。
でも、いいんだよな。好きなんだもん。


花井の目の前まで行ったら思った通りの真っ赤な顔でゲンコを一発もらいました。


「痛ってー!」

「てっめぇ!絶対聞こえてたのに叫んでたろ!」

部室に入った瞬間、視界に星がいくつも飛んで背景が真っ白になったけど花井がぎゃーぎゃー言ってる姿はわかった。
うん。さすが俺、花井だけは意地でも見えるみたい。

「ったく。さっき売店で買った菓子、分けてやろうかと思ったけどやーめた。ざまぁみろ」

「え!?やだやだ欲しい。ごめん!ホント、大きな声で名前連呼してごめんなさいー!」

「あーあー。どうしようかな」

「はないぃぃ」

「じゃぁ今度からは?」

「気を付けます!」

「返事だけはいいんだよなぁ。お前」

花井の目が柔らかく細まる。あ、これはもう許してくれる合図だ。

「まぁ、今回は許してやろう」

「ははー。アリガタキシアワセ?」

「ぶっは。んだそれ、くくっ。んじゃ、部活始まる前に食っとけ」

「ほーい」

花井とこうして話しているのが嬉しくて勢いよく手まで挙げて返事したら、花井は本当に返事はいいんだよなぁと笑って、ロッカー前に置いた鞄から一つの箱を取り出した。
赤と白とそれから茶色。スライド式の箱菓子。

「・・あ、」

箱を見、花井を見、また箱を見る。これは、アーモンド…。

「なんだよ、嬉しくないのか?あんなにせがんでたクセに」

「え、…え!?違う違う!嬉しい!めちゃくちゃ嬉しい!」

「お前があんまりうるせぇもんだから俺まで食いたくなっちまったんだぞ?まぁ飴じゃ溶けきる前に部活始まっちまうかもだしな。ってそもそもアレはのど飴だけど」

「はない。ほ、ほんとにもらっていいの?」

「あ?いらねぇの?」

「いりますいります!めちゃくちゃいります!」

「ぶっ。だからさっきからなんなんだ、その挙動不審な態度。ウケルんだけど」

「ひっでー」

「ふは。なんか俺、今日笑いすぎて腹痛いかも」

「ひ、ひっでー!」

「あー、悪い悪い。それ、言うまでもないけど一応。全部食うなよ俺まだ食べてないんだから。で、食ったら鞄の上置いといてくれ。先に着替えるからさ」

そういって花井はロッカーを開ける。
残された俺は右手にもった箱を両手で持ち直して、もう一度じっとその箱を見つめた。
アーモンドの、チョコ。
偶然だってなんだってこの日に花井からのチョコをもらった。
しかも、俺がきっかけだって。
俺が花井に野球だけじゃなく影響を与えてるって。こと、なんだよね?
ハチミツ味ののど飴。アーモンドのチョコレート。
俺が、花井を構成している要素に入ってる。

うっ。

わわわわああああああ。

やばい!

カッと身体が熱くなった途端バッと音がなるくらいにしゃがみ込む。
左右を見まわして後ろを振り返りそろそろと自分のロッカーどころか隅の方に向かって足を進めた。
そう。やばい。

た、勃っちゃった・・・!

まだ完全フル勃起じゃない。けどよく見れば制服の上からでもわかるくらいには盛り上がっている。
それでも両手は箱を丁寧に持ったまま。
ああああ、俺の馬鹿息子おおお!!
でも、だってしょうがないよねぇ!
しょうがないじゃんかー!
花井、俺の気持ちに気づいてんの?いやいや鈍ちんの花井に限ってそれはない。
でもあーもうなんなのもー大好き?大好き!
俺やばいって、これ。チョコ食べたら鼻血出すんじゃないのコレェェ!

「ん?田島ー?お前なにそんなとこ行ってんの。てか、まだ食べて…ってもしかして全部食べっ」

「てない!食べてない!一つもらったらちゃんと返す!」

「いや、別に二つだろうが三つだろうが全部じゃなきゃいいんだけどさ」

「あ、ああ、ありがとう!」

「おいおい。マジで挙動不審具合が半端ねぇぞ。大丈夫かぁ?」

「ゲンミツに大丈夫!」

「?まぁ、部活に支障きたすなら無理すんなよ。すぐしのーかや俺に言うんだぞ」

「リョーカイ」

花井が再びロッカーと向い合せになり俺から視界が外れる。俺は背中に冷や汗を浮かべ安堵の溜息をついた。
ふぅ。今のでどうやら息子も縮んだみたいだ。花井がこっちに来たらどうしようかと思った。
まったく。俺はどんだけ花井が好きなんだっての。花井に見られて幻滅されると思ったらこれだもんな。

まるで壊れ物を扱うように箱の中をスライドさせる。
艶々いつもと同じはずなのに全然違う輝きを放つチョコレートたちに軽く眩暈まで覚えた。

まだ俺の片思いだけど。

一つ摘まんで口に含み舌で転がす。
チョコが甘く溶けざらりとしたアーモンドの感触にたどり着く。
歯で噛み砕けば香ばしい音が頭の中に響いた。

「俺、絶対花井のこと振り向かせてみせる」

「んー?なんだー田島、呼んだか?」

小さくつぶやいたはずなのに、ロッカーを向いたままユニフォームのベルトを締めながら花井が応えた。
それが、俺には花井が俺を少しでも意識している証みたいで、

「ううんー。こっちの話ー」

零れる笑みをそのままに、もう一つ、甘くて幸せの塊を口の中に放り込んだ。

アピールがさらに増して告白するのはもう少し後・・・。







せよ少年。






→あとがき
*****

11.02.20.
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