SHORT†STORY
□STRANGE
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バシャバシャと廊下に響く水音。
「くっそ……なんでとれないんだよ!」
焦りの混ざった小さな声。
彼は、ずっと手を洗っている。戦場から帰還してから、ずっと……。
「シン……?いつまで洗ってるの?油か何か触った?」
汚れがとれないからとひたすら手を洗い続ける彼に、ルナマリアは心配そうに声をかけた。
「とれないんだ、ずっと洗ってるのに……。」
懇願するように、ルナマリアを見つめるシンの顔は、ひどく憔悴していた。
なんの汚れがとれないのか、不思議に思ったルナマリアは、シンの手元を覗く。
「っ…ちょっあんた!何してんのよ!」
その光景に言葉が詰まる。
シンの手は、汚れてなどいなかった……。それなのに彼は何かに取り付かれたかのように必死の形相でその手を洗い続けている。
「何って、とれないんだよ、これ……ずっと、ずっと洗ってるのに……あいつの血、とれないんだ」
「シンっ……」
光を失って焦点の定まらない瞳、小さくゆがめられた口元……
その様に、ルナマリアは衝動的に彼を抱きしめた。