コルダ小説
□timore
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いつからだろうか……?
火原先輩を優しく抱くことができなくなったのは……
連日、俺が酷い抱き方をしても、先輩は『大丈夫だよ』と俺を抱きしめ、背中を撫でてくれる。
俺の心が見透かされているようで、それが悔しくて、また先輩をめちゃくちゃにしてしまう。
きっと先輩は分かっているんだ……
俺の中にある不安を……
帰宅途中に寄ったオープンカフェ。
テラス席に座った俺たちは、なんとなく夕日が沈んだばかりの空を見上げていた。
「あ〜、もう来週かぁ。卒業式」
「…………そうですね」
火原先輩の言葉が俺の胸を締め付ける。
そう……
あと1週間しかない……
先輩が卒業してしまうことは、俺がどう思おうと避けようのない現実だ。
それなのに俺はその日がくるのが怖くて、不安な気持ちを曲がった形で表すことしかできなかった。
そんな自分に心底嫌気がさす。
「寂しい?」
黙りこんでいると、火原先輩が子供のような笑顔で、俺の顔をのぞき込んできた。
「……いえ、別に」
動揺した俺は、思わず素っ気なく答えていた。
「……そっか。うん、そうだよね」
火原先輩は一瞬だけ顔を曇らせたが、何かに納得したように頷くと、椅子に座り直し、再び空を見上げた。
「でもね。俺は寂しいよ。柚木は違う大学行っちゃうし、この制服も着られなくなっちゃうしね……それに」
「それに?」
俺はある願いを胸に、火原先輩の次の言葉を待った。