遙か小説

□迷い犬
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春の霞みが月を揺らす夜、将臣は当て所もなく闇の中をさまよっていた。

「ここはどこなんだ…?」

将臣が学校の渡り廊下で流れに飲み込まれ、ここにたどり着いてから、数日が過ぎていた。

いくら歩いても建物らしいものは見当たらず、人に会うことすらできない今、将臣は焦っていた。

「マジかよ。さすがにヤバいな…」

数日間、何も口にしていない。将臣の思考はまとまらなくなっていた。

「少し、休むか…」

無闇に歩き回っても体力を消耗するだけだと思った将臣は、フラつく足を引きずって、道の脇の木の下に転がった。

丸い月を見上げていると、どこからともなく花の香りが漂ってくる。覚えのあるその香りに、今が春であることだけは知ることができた。

突如、グラッと視界が揺らぎ、意識が遠のいていく。

死ぬかもな、と思いながら将臣は目を閉じた。
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