遙か小説
□火蛾の如く
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ー熊野・花の窟ー
「…ん??今、誰かに見られていたような」
望美がキョロキョロとする。
「こんなところに誰がいるんだよ。お前、気、張りすぎだろ」
将臣は冷静に答えた。
「そうなのかな…気のせい?」
望美は首を傾げている。
「…ったく、タイミングが悪いぜ」
そう言う将臣も身の回りに気配を感じていた。
「…っ」
将臣は、望美の後方の木陰に知盛の姿を見つけた。
知盛と目が合った瞬間、将臣の顔が微かに強張る。その表情を見た知盛はニヤリと笑うと、指先で将臣を呼んだ。
「どうした?将臣」
リズヴァーンが尋ねる。
「いや、どうにも…集団行動ってのは苦手なんだ。悪いが、息が詰まってきたぜ」
将臣はもっともらしいことを口にした。
「少しプライベートを満喫させてもらおうか」
「ええっ!?将臣くんっ!どこに行くの?」
望美が大声を上げる。
「しばらくしたら戻ってくる。先に行っててくれてもかまわないぜ」
将臣は軽く手を振り皆から離れ、見えない場所まで来ると、知盛に近づいた。