遙か小説
□初体験
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イノリは土御門で一人、暇を持て余していた。
「ちぇっ。なんで俺だけ…」
「おや?今日はイノリ一人なのかい?」
そこへ香の薫りと共に、友雅が姿を現した。
「友雅か。見りゃ解んだろ…」
イノリは友雅を睨みつけた。
「おやおや、随分とご機嫌斜めのようだねぇ。他の者たちはどうしたんだい?」
友雅は噛みつくイノリを大して気にも止めずに尋ねた。
「札、探しに行ってるぜ」
「お前は行かなかったのかい?」
「俺だって好きでここにいる訳じゃねぇよ…藤姫が…」
「藤姫がどうしたんだい?」
友雅はイノリに先を話すよう促した。
「俺、あかねと出掛けようと、朝早くここに来たんだ。そしたら藤姫が占いやってて、今日は俺が出掛けると良くないことが起こるから、ここにいろって…」
「それで置いて行かれたんだね」
イノリは拗ねたように、そっぽを向いた。
「それでは私も失礼するとしよう。神子殿がいないのでは仕方がないからね」
友雅は部屋を出ようとした。