遙か小説
□この胸の痛みを…
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屋島の夜、源氏の陣では翌日の作戦を話し合っていた。
「では、そういうことで、明日も早いですし、今日はもう休みましょう」
弁慶の一言で、皆は席を立ち、寝所へ向かった。その一番後ろを歩いていたヒノエがふと振り返ると、弁慶はまだ椅子に座り込んでいた。
「どうかしたのか?…あんた最近殆ど寝てないだろ。早く休みなよ」
ヒノエは弁慶のところまで戻り話しかけた。
「あぁ…そうですね。僕も行きます」
弁慶が椅子から立ち上がった瞬間、体が揺らぎ、ヒノエは慌てて支えた。
「…あんた。やっぱりどこか悪いのか?」
ヒノエは先程の話し合いの最中、隣に座る弁慶の体が震えていたことが気になっていた。
「…大丈夫ですよ。驚かせてしまったようですね。さあ、行きましょう」
心配するヒノエを余所に弁慶は歩き出す。しかし、数歩進んだところで弁慶は胸を押さえ、その場に座り込んでしまった。