夢幻狼

□第十八章・激憤
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「見つからねえだと!?」

「ええ、何も……」

永倉の細やかな期待は裏切られた。


懸命に捜索したものの、自分を含め、二番組の成果は皆無に等しかった。

目撃者もなく、人の手ではここまでが限界だろうが、太刀なら何かしら発見すると思っていた。
それが、まさかの無収穫だったのだから、永倉は驚きを隠せない。


「組長、どうしますか?」

遠慮がちに島田が指示を仰ぐと、永倉は片手で頭を抱えて溜息をついた。


「……仕方ねえ。突っ立ってても手掛かりはねえんだ。帰るぞ、おめえら」


やれる事はやった。諦めたくないが、これ以上の進展は望めない。

苦い口調で告げると、隊士たちは悔しさを滲ませながら、気落ちした様子で道を引き返す。
特に島田は、護衛として側に居ながら近藤を守れなかった事に、誰よりも責任を感じていた。


「島田、気持ちは分かるが思い詰めるなよ」

「……はい」


「島田君、新さん」

と、後ろから呼び止められ、永倉と島田は声の主である太刀を同時に振り返る。


「どうした?」

「必ず痕跡はあるはずです。もう少し、周辺を調べてもいいですか?」

「それは構わねえが、遅くなるなよ」

「無理はなさらず、なにか解りましたらすぐに知らせてください」

「……ありがとう御座います」

許可を得た太刀は、すぐに踵を返した。
しかし、その表情はふたりの視界から顔を背けた瞬間に変貌する。

獲物を見つけた狼のように研ぎ澄まされた一一ある目的を持つ眼へと変化していた事に、ふたりは気付かなかった。






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