夢幻狼

□第十八章・激憤
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王政復古の大号令が下され、将軍や幕府が地位を失い始めたことで、京の都は大きく揺れ動いた。

薩摩を中心に、今まで幕府と敵対してきた藩が続々と京に集まっている。


大阪城におわす徳川慶喜公の楯として、京に集まった薩長軍を警戒せよ。との命を受け、新選組は屯所である不動堂村を離れ、大阪と京を繋ぐ伏見街道の要所、伏見奉行所の警護にあたった。


密偵や諜報活動が主である監察はこれまで以上に忙しくなった。

山崎と島田の部下にあたる太刀も例外ではない。


奉行所に来る数日前から、町の様子や薩長軍の動向を偵察している。
時折土方に報告しに戻るぐらいで、一日の大半を外で過ごすようになっていた。


そして、十二月十八日一一。奉行所に詰めて僅か二日後に事件が起きた。




「山崎!いるか!?」

その時、太刀と山崎は互いの諜報内容の確認のため、偶々同じ部屋に居た。

慌ただしく駆け込んできた永倉は、山崎を見るなり捲し立てる。


「すぐに来てくれ!街道で近藤さんが撃たれた!」

二人の表情が強張る。太刀は目の前が、自身の髪より真っ白になっていた。
だが、永倉に付着している近藤の微かな血の匂いがすぐに彼女を現実に引き戻す。


「わかりました。すぐに!」

「では、自分も一一」

「太刀は俺と来い!急いで伏見街道に行くぞ」

「……承知しました」

端的な言葉だが、太刀はすぐに理解した。


近藤の容体も気になるが、いま自分がすべき事は犯人の痕跡を探ること。

しかもこの時、空は曇っていた。
すぐに現場を調べないと、雨が降ったら太刀の嗅覚でも探せなくなる。

手当ては山崎に任せて永倉について行き、集合した二番組の隊士たちと共に、近藤が狙撃された伏見街道へと向かう。
監察であると同時に二番組の伍長でもある島田も同行していた。


撃たれたのは右肩だと永倉は言った。

何故こうなったのか一一。


旧幕府の重鎮と会合を行うため、最近の近藤は連日のように屯所を空けて二条城へ行っていた。

奉行所に来てからもそれは変わらない。狙撃されたのは、その会議を終えた帰りだった。


犯人の目星がつかない事もないが、確証は無い。

現場に到着すると、隊士たちはすぐに散開して痕跡を探す。


一一正直なところ、永倉はすぐに痕跡は見つかると思っていた。何故なら太刀がいるからだ。

匂いという、目に見えない痕跡を追跡できるのは太刀だけだ。その意味では、山崎や島田以上に優れた監察だと言っていい。

周辺の捜索や聞き込みをしながらも、永倉には心のどこかで楽観している部分もあった。

しかし……。






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