夢幻狼

□第十八章・激憤
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翌日の昼下がり一一。

太刀と千鶴は洗濯物を協力して片付けていた。


共同で洗濯物を取り込み、綺麗に畳んでから手分けして運んだ。太刀は千鶴より力があるので、必然的に運ぶ量も多くなる。

羽織や手拭い、寝間着など手近な所から片付けていき、最後に太刀の手元に残ったのは、千鶴の寝間着だった。
彼女に届けようと部屋に行くと、太刀はそこで信じられない光景を目にした。


「……山南さん、何してるんですか?」

「太刀……」

「おや、白銀君ですか」

抜き身の小刀を持った山南が、怯える千鶴に迫ろうとしている。
一目で穏やかでない状況を悟ると、太刀は千鶴を庇うように間に入って山南を見る。


「心配しなくとも、彼女を殺したりしませんよ。ほんの少し、血を分けてもらうだけです」

「……だから何です?」

挑発するような物言いに眉を顰めるも、山南はすぐに表情を戻して続ける。


「……多くの羅刹を失いました。今いる羅刹やこれから増やす羅刹をより有効に活用するには、狂気を抑える術を見出しておくことが必要不可欠です。一一雪村君は、鬼です。人より強い力を持つ鬼の血なら、あるいは羅刹の狂気を完全に抑える力があるかもしれません」

「……そのために、怯える彼女を傷付けるんですか?」

「私のしていることは、すべて新選組のため。雪村君が大事なのは知っていますが、聡明な君には分かるでしょう。……それとも、君が協力してくれてもいいんですよ?白銀君。狼に変身できる小角の血にも、興味がありますし」

その言葉で、太刀の目付きが鋭く細められた。怒りを伴った不快感が表に現れた瞬間である。


「……山南さん、あまりふざけないでくれますか?貴方を軽蔑したくありません」

「私は至って真面目ですよ。今後の戦いは、新選組にとってますます厳しいものとなる。君も、近藤さんの役に立ちたいでしょう?」

「俺は総司じゃありません。近藤さんの名前を出せば、なんでも引き下がると思ったら大間違いですよ」

「ほう?」

「それに、お言葉ですが私闘はご法度です。総長ともあろう方が、隊規を破るつもりですか?」

「ああ、なるほど。しかし、雪村君は隊士ではありません」

「だから無理矢理でも羅刹隊の実験に協力させてもいい、と仰りたいんでしょうが、生憎、土方さんの許可なく言われても説得力ありませんよ?」


「……仕方ありませんね」

山南は静かに刀を納めた。






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