文3

□木漏れ日びより
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普段、三勢力を跨ぎ多種多様な任務をこなしているゴウに代わり、今日は同郷の忍であるキヌが任務を請け負ってくれた。

聡明で器量も良く、忍としての腕も確かな彼女は、何の力も持たない私にも姉のように接してくれる、憧れの女性だ。

あと一人、飛鳥忍者の生き残りであるザジという人が居るそうだが、いつか会って話が出来る日が来る事を、切に願っていた。


定位置となっている場所で、ゴウが淡々と手裏剣の刄を研ぐ音が響く中、縁台に腰掛けた私は、暖かい木漏れ日に僅かに瞳を細める。
穏やかに頬を撫でる心地よい風に、殺伐とした世界の中である事すら忘れてしまいそうだ。

不意に、白い影が視界を横切り、視線を隣に向ける。


「…いい天気ですね、オンジさん」


悠々とした仕草で隣に座る猫に、笑みを浮かべながら声を掛ける。

答えるように小さく鳴いた猫は、私の膝元にするりと擦り寄った。

愛らしいその仕草に、思わず綻ぶ頬を感じながら、滑らかな毛並みを掌でなぞる。
ゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らす猫の身体を静かに持ち上げ、膝に乗せた。


「今日の献立は何がいいかなぁ」


ふにふにと柔らかい感触を楽しみながら、なんて事の無い言葉を紡ぐ。

猫と戯れながらの日向ぼっこはあまりにも心地よく、だらしなく緩んだ頬を戻せそうにない。

ふと、おとなしく膝に納まっていた猫が顔を上げ、ペロリと頬を舐めた。


「わ!オンジさん、くすぐったいよ」


ザラリとした猫特有の舌の感触に、小さく身を捩る。

頬や鼻先を舐めていた舌が、徐々に首筋に移動し、思わず間の抜けた声が零れた。


「うひゃぁ!ちょ、まっ、あはは!く、くすぐったッ、あっはは!」


首筋から耳元に掛けて、舌が肌を撫でる感触が擽ったくて堪らない。

身を捩りながら、堪え切れずに笑い声を零す。


「もっ、ホントまってっ、ふはっ」


限界まで背を反らして逃れようと試みるが、悪戯心に火が点いたのか、猫が止めてくれる気配はない。

そろそろ呼吸が乱れてきた頃、不意に背後から伸びてきた腕に、膝の上の猫がさらわれた。


「っ、ゴウさん!」


まだ乱れた息のまま、ほぼ真上を見るようにゴウを見上げる。

何処か不機嫌そうな面持ちで、首根っこを掴み視線を合わせた猫を見つめるゴウに、ふてぶてしい目をした猫が楽しげにニャアと鳴く。

なにやら、二人(一人と一匹)の間にただならぬ空気を感じ、笑い過ぎてうっすらと涙が滲む瞳を擦りながら、小さく首を傾けた。




(………何だか知らんが、気に食わん)
(まだまだ青いのぅ)

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