文3
□忍ですから。
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取り留めの無い雑談の最中、私は思わず間の抜けた声を上げた。
「え、小太郎さんってお料理なさるんですか!?」
「………」
こくりと縦に動く頭に、驚きを隠せない。
いや、何事もそつなく迅速にこなしてしまう器用な彼の事だ。
料理の一つや二つ、出来て当たり前なのかも知れない。
しかし、一分の隙も感じさせないこの男が、お玉片手に台所に立つ姿が、私には想像できない。
「…………」
「…え?何ですか、小太郎さ、わぁ!」
グイッと腕を引かれ、あっさりと肩に担ぎ上げられたと思った時には、独特の浮遊感と共に世界がぐるりと旋回した。
「…………、」
「…あ、れ?此処は…?」
トントンと軽く肩を叩かれ、ゆっくりと降ろされた場所は見慣れぬ家の前だった。
疑問符を浮かべて小太郎を見上げると、彼は自分を指し示し、その指を静かに家に滑らせる。
「えっ!ここ小太郎さんの家ですか!?」
「………」
こくりと肯定を示した彼に促されるまま、隠れ家の中へと足を踏み入れた。
「お、お邪魔します」
「………」
簡素な室内に入り、差し出された座布団に腰掛ける。
どうしていいやら分からずに、キョロキョロと所在なく視線を彷徨わせていると、台所に立った小太郎が何処からか大きな大根を取り出した。
疑問に思う間もなく、ソレは鮮やか過ぎるほどに華麗な包丁捌きで、一瞬にして刻まれる。
そこからはもう、見惚れる程にてきぱきと調理が進み、あっという間に美味しそうな料理が目の前に並んでいた。
「ぅ、わぁ…!すっごい!」
「………」
食欲を刺激するいい香りに誘われ、思わず声を零す。
自然と緩んでしまう頬をそのままに、渡された箸を受け取り小太郎に向き直った。
「これ!本当に食べていいんですか?」
「………」
「有り難うございますっ!」
誘惑に負け、礼を言ってから箸をつける。
よく味が染み込んだ煮物を頬張り、溢れ出るままに表情を緩ませた。
「〜ッ、美味しい!小太郎さん、コレすっごく美味しいです!!」
「………」
破顔したまま、尻尾を振る犬のように言葉を紡ぐと、小太郎はふわりと僅かに口角を持ち上げる。
自分で作るよりも美味しいかも知れない料理の数々に、また一つ伝説の伝説たる一角を垣間見た気がした。
(家事も炊事も伝説級!)
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