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□強奪バースデー
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何時になく浮き足立った雰囲気を漂わせる城内を、空を貫くように聳え立つ門の上から見下ろす。
皆一様に穏やかな表情を浮かべ、ソワソワと忙しなく動き回っている様子に、日頃彼女がどれ程迄に周囲を惹き付けて居るのかがありありと分かった。
不意に、パタパタと軽い足音を響かせながら馴染んだ気配が近付いてくる。
同時に透き通った声音が鼓膜を震わせた。
「あ、小太郎さん!やっと見付けたぁ」
「………」
少し乱れた呼吸を整えながらこちらを見上げる彼女の傍らに、ふわりと音もなく降り立つ。
走り回っていたせいか、仄かに上気した頬を弛ませながら、弾むように言葉を紡いだ。
「あの、私今日誕生日なんです」
「…………」
「それで、ですね………あの、」
彼女は視線を地面に逃がし、何処かはにかむように言葉を濁した。
今日が彼女の誕生日である事は、何日も前から氏政が城中に公言して居る為周知の事実だ。
主役たる彼女が、わざわざ自分を探す理由が思い当たらず、軽く首を傾げて言い淀んでいる彼女へ視線を送る。
彼女は意を決したように顔を上げ、緩やかに唇を動かした。
「…小太郎さん。一つだけ、お願い聞いてもらえますか?」
「…………」
顔を赤く染め、こちらの様子を伺うように呟かれた言葉に、少しだけ驚いたが直ぐにこくりと了承を示す。
すると彼女は、嬉しそうに表情を綻ばせた。
「…じゃぁ、ちょっとだけ屈んで下さい」
「………?」
言われるままに、少し身を屈ませて彼女の目線に近付く。
刹那、細い腕に首元を捕らえられ、柔らかい感触が頬に触れる。
しなやかな髪から香る甘い香が鼻腔を掠め、どくりと心臓が疼いた。
「…………ッ!?」
予想だにしない彼女の行動に、不覚にも一瞬動きを忘れた身体から、するりと腕が解かれ耳まで真っ赤に染まった彼女と目が合った。
「………ッ、ぇっと…その、あの……ッごめんなさーい!!」
羞恥心が限界に達したのか、彼女はくるりと勢いよくきびすを返し、猛然と駈けていく。
暫く、その場で茫然と遠ざかる背中を見送っていたが、僅かに乱れる自分の心音を沈めるように強く地を蹴った。
強奪バースデー