文2

□落涙
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「…嫌いですッ!」


破裂する感情を投げ付けるように、喉の奥から声を絞りだす。
ソレは自分が思った以上に震えていて、目の奥を刺激した。


「小太郎さんなんて、大きらい…ッ!!」


全身を暴れ回る感情を吐き出すように、次々と溢れて止まらない雫が頬を濡らす。
滲んだ視界に映る紅を見据え、きつく拳を握り締める。


「きらい…です」


うわごとのように同じ言葉を繰り返し、私は無機質なまでに変わらず目の前にたたずむ男から、逃げるようにきびすを返した。


「…もう、下がって下さい」


嗚咽を何とか押し殺し、気配の無い背後へ告げる。

彼は、きっともう既にこの部屋から姿を消しただろう。


「………ふっ…ッ、」


せき止めていた涙が溢れ、只でさえ濡れていた頬を容赦無く染めていく。

堪える事なくしゃくり上げ、ぐるぐると渦巻く感情のまま肩を震わせた。


「…………、」

「…っ!?」


唐突に背後から伸びてきた腕に身体を捕らえられ、私は息を呑む。

ぼんやりと霞が掛かったような思考回路が、必死に状況を理解しようとあがいた。


「………」


混乱する私を尻目に、後ろから掻き抱くように腕を回している人物は、そっと、壊れ物に触れるように私の頬に手を伸ばし、涙を拭う。


「………な、んで…ッ」


優しく私を捕らえている腕の中で、震える心から絞りだすように声を零す。


「…なんで…此処に居るんですかっ」

「…………」

「どうして、こんな……ッ、卑怯、ですっ」


口を開けば開く程、どんどん感情が昂ぶり溢れていく。
歪む視界に瞳を閉じて、もう何を言っているのかすら曖昧になっていた。


「小太郎さんは卑怯ですっ!!………こん、な…ッれたら、」

「………」

「…ぅ、くっ……」


嗚咽に邪魔され、上手く言葉が紡げない。
ボロボロと壊れたように溢れる涙を掬い取るように、小太郎の唇が目尻に触れた。

そっと与えられる柔らかい温度に、ぎゅっと心臓が締め付けられる。


「…き、らい…にっ、なれないじゃないですかぁ…ッ!!」

「…………ッ」


半ば叫ぶように言葉を零し、自分の身体に回る腕に縋り付いた。

それに呼応するように、抱き締められた腕に力が籠もり、私はまた溢れだす涙を止める事が出来なかった。




(優しい悪魔に、捕われて)

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