文2
□生きてる人の方が怖いんだ!
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『深夜、いつものように墓地の中を自転車で通り抜けようとした時でした………』
私は、もはや真夏の風物詩になっているテレビの心霊特集を、真剣な眼差しで食い入るように見つめる。
手には氷を入れているせいで結露しているグラスを持ち、やけに毒々しい低音のナレーションに耳を傾けた。
『フッ………と、急に体が重くなってきて、怖くなった私が必死にペダルを扱いだらキキーッと急にブレーキが掛かって自転車が止まったんです……』
だんだんと盛り上がる雰囲気につられて、ごくりと小さく喉を慣らした。
『怖くて怖くて、どうしようかと思っていたその時!………冷たい、真っ白な腕がお腹にしがみついてるんですッ!恐る恐る、後ろを振り返ると……そこにはッ、』
ぽんっ
「きゃぁぁぁぁぁぁッ!!!」
怪談話が山場を迎えた正にその瞬間、気配も無く何者かの手が肩に乗せられた。
あまりにも驚いて、夜中に迷惑極まりない悲鳴を上げると、肩に置かれた手がビクリと一瞬小さく跳ねる。
「…………ッ、?」
勢いよく振り返ると、珍しく少し狼狽えた様子の小太郎が首を傾げていた。
その姿を見た瞬間、恐怖に張り詰めていた緊張が一気に解けた。
「……こッ、こたろうさん!!気配消して背後に立たないで下さい、こういう時はぁ!!」
「………ッ!」
あまりにもタイミングが良過ぎたせいで、恐怖のあまりぶわっと溢れだした涙を拭わないまま、訳の分からない非難を口にする。
突然泣き出した私に、小太郎は困り果てた様子でそっと頭を撫でてくれた。
「ぅう〜……何であんなの見ちゃったんだろぉ…」
「………」
怖がりの見たがりな自分の性格を呪いながら涙を拭う。
さり気なく頭を撫でていた手を移動させ、軽く抱き寄せてくれた小太郎に甘えるように、その胸板に額を寄せた。
「………小太郎さん」
「………?」
「今日……一瞬に寝ちゃ駄目ですか?」
「………ッ!!?」
背の高い小太郎を精一杯見上げながら、ギュッと服の端を掴んで言葉を紡ぐと、滅多に見れない動揺した姿が目に映る。
私は、ブンブンと左右に首を振る小太郎に、必死にしがみ付いて泣き付いた。
「お願いします…!もう、コレ一人じゃ絶対寝られないですよぉ……ッ!」
「…………ッ、」
未だ拭えない恐怖に突き動かされるように、ギュッと小太郎の背中に腕を回すと、一瞬ビクリと体が跳ねる。
「……………」
怖さに我を失っている私は、そっと抱き寄せてくれた小太郎の口角が怪しく歪められている事に、気付く由もなかった。
生きてる人の方が怖いんだ!!
(私がそれを痛感するまで、)
(あと一時間とちょっと)
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